著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

健康診断で測る項目の一つにビタミンD(血中の25-ヒドロキシビタミンD、25(OH)Dという物質)があります。骨の健康に関わることで知られていますが、近年はエネルギー代謝や免疫、炎症にも関与すると考えられるようになってきました。今回紹介する研究は、このビタミンDの血中濃度と、肝臓に脂肪がたまる「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」との関係を、中国・深圳の病院で行われた大規模な健診データを使って調べたものです。ビタミンDと脂肪肝の関連はこれまでも報告されてきましたが、肥満や中性脂肪といった代謝の問題が両者に同時に絡んでいるため、「ビタミンDそのものの関連なのか、それとも代謝の乱れを映しているだけなのか」がはっきりしていませんでした。この研究は、その切り分けに挑んだ点が特徴です。

3万5千人分の健診データで何を調べたか

研究チームは、2022年1月から2025年12月にかけて深圳人民医院で健康診断を受けた成人35,468人(平均年齢46.3歳)のデータを後ろ向きに解析しました。血中25(OH)D濃度は磁性粒子化学発光法という測定方法で測られ、平均値は65.4nmol/Lでした。この値をもとに、参加者は「欠乏(50nmol/L未満)」「不足(50~75nmol/L)」「充足(75nmol/L超)」に分類され、欠乏が29.6%、不足が41.9%、充足が28.5%という内訳でした。MASLDの有無は、腹部超音波検査で肝臓のエコー(反射)の強さや血管の見え方などから放射線科医が判定し、超音波データのある29,452人のうち36.1%がMASLDと判定されました。男女差も大きく、男性51.1%に対し女性23.7%でした。解析には、年齢・性別を調整したうえでの多変量ロジスティック回帰、部分相関分析、さらに中性脂肪やBMIなどの代謝指標が関連のどれだけを「統計的に説明」しているかを見積もる媒介分析(メディエーション分析)が用いられました。

ビタミンDと脂肪肝の関連、そして代謝要因の役割

年齢と性別を調整したモデルでは、血中ビタミンD濃度が10nmol/L上がるごとにMASLDのオッズ比は0.90(95%信頼区間0.89~0.91)となり、ビタミンDが高いほどMASLDが少ない傾向が見られました。さらにBMI、中性脂肪、HDLコレステロール、空腹時血糖、尿酸といった代謝指標を追加で調整しても、オッズ比は0.93(0.92~0.95)とやや弱まりつつも関連は残りました。一方で、ビタミンDと他の多くの代謝指標(BMIやHbA1cなど)との関連は、年齢・性別で調整すると方向が逆転したり弱まったりしており、見かけ上の関連の多くが年齢などの交絡によるものだったことが示されました。実際、調整後も独立した関連が残ったのは中性脂肪(部分相関ρ≈-0.13)、肥満関連の指標(ρ≈-0.06~-0.07)、HDLコレステロール(ρ≈0.08)など一部に限られています。媒介分析では、ビタミンDとMASLDの関連のうち37.6%が、測定された代謝要因によって統計的に説明できると推定されました。その内訳は中性脂肪が39.2%と最も大きく、次いでHDLコレステロール14.7%、BMI13.0%でした。空腹時血糖の寄与はわずかで、尿酸には有意な媒介効果は見られませんでした。つまり関連の4割弱は代謝要因で説明できるものの、残りの6割強はこの研究で測定した代謝要因だけでは説明がつかなかったことになります。この逆相関の傾向は、年齢層別・性別のいずれのサブグループでも一貫して見られました(年齢層別のオッズ比0.93~0.97、男性0.93、女性0.95)。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

著者らは、ビタミンD受容体(VDR)の働きが肝臓での脂質合成に関わる遺伝子(SREBP-1c)を抑えたり、炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6)の経路を弱めたりする可能性が過去の研究で示されていることを踏まえ、今回の関連には生物学的な妥当性があり得るとしています。ただし、この研究はある一時点のデータを横断的に解析した後ろ向きコホート研究であり、媒介分析も統計的な関連の説明にとどまるもので、因果関係の証明ではないと著者ら自身が明言しています。つまり、「代謝要因で説明しきれない部分」があるからといって、それがビタミンD不足が脂肪肝を引き起こす生物学的な経路の証拠だと解釈すべきではない、という慎重な姿勢が示されています。また、この研究では中性脂肪などの血液検査値に27~28%程度の欠測があり、血圧や甲状腺機能、カルシウムなど欠測率が50%を超える項目は解析から除外されました。欠測が完全にランダムかどうかも確認できておらず、選択バイアスの可能性も限界として挙げられています。超音波診断についても、通常の診療データを後ろ向きに使ったため、読影者間の一致率は評価されていません。研究の対象は中国・深圳の一施設で健診を受けた人々であり、他の集団にそのまま当てはまるとは限りません。

この研究では、ビタミンDの血中濃度が低いことと脂肪肝(MASLD)の存在との間に、代謝要因だけでは説明しきれない関連があることが示唆されました。著者らは、ビタミンDが肝臓の代謝の健康状態を映す一つの指標(マーカー)となる可能性があるとしつつ、その臨床的な意味を確かめるにはさらに前向きな研究が必要だと結んでいます。

原著論文の著者・所属:Hui He(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Yanfang Xie(Department of Thoracic Surgery, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Rui Peng(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Xiao Pan(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、雪 韩(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Meiyan Chen(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Dong Du(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Qian Ge(Department of Clinical Nutrition, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Yan Wu(Department of Endocrinology, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Mingfei Wang(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Yuanxiang Wang(Headquarters of Shenzhen Nanshan Medical Group)、Qingshan Geng(Department of Geriatrics, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)、Weiqing Wu(Department of Health Management, Shenzhen People’s Hospital, The First Affiliated Hospital, Southern University of Science and Technology, The Second Clinical Medical College, Jinan University)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Hui He, Yanfang Xie, Rui Peng, et al. Vitamin D status, metabolic determinants, and association with MASLD: retrospective health-screening cohort mediation analysis. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1922441. 原著ライセンス: cc-by.