ヨーグルトや発酵食品に含まれる乳酸菌は、腸内環境を整える働きでよく知られていますが、筋肉の健康にも関わっている可能性が近年注目されています。今回紹介する研究では、Lactiplantibacillus plantarum WY2401という乳酸菌の一種が、マウスの筋肉再生にどのような影響を与えるのか、そしてその背景にある分子レベルの仕組みを調べています。研究の鍵となったのは、リボフラビン(ビタミンB2)と、mRNA(メッセンジャーRNA)に施される化学修飾の一種であるm6A(N6-メチルアデノシン)でした。

どのように調べたのか

研究チームは、カルジオトキシンという物質を投与して筋肉に損傷を与えたマウスのモデルを用い、L. plantarum WY2401を与えることで筋肉の再生過程がどう変化するかを観察しました。あわせて、血液中の代謝物質を網羅的に調べる非標的メタボローム解析を行い、この乳酸菌の投与によって血中でどのような物質が増減するかを探索しています。さらに、mRNAのm6A修飾量の変化を、ドットブロット法とMeRIP-qPCR法という手法で測定しました。

研究でわかったこと

解析の結果、L. plantarum WY2401を与えたマウスでは、血中の代謝物プロファイルが大きく変化しており、なかでも腸内細菌由来のリボフラビンの増加が目立ったとされています。このリボフラビンは血流に乗って骨格筋まで運ばれ、筋肉が作られていく過程(筋形成)の段階に応じて、m6Aの書き込みに関わる酵素METTL3の発現を調節していることが示されました。

具体的には、筋肉のもとになる細胞(筋芽細胞)が増殖する段階では、METTL3によるm6A修飾とYTHDF1というタンパク質を介した経路が働き、Cdk2やCcnd1といった細胞増殖に関わる遺伝子のmRNAを安定化させることで、筋芽細胞の増殖を後押ししていると報告されています。一方、筋芽細胞が成熟した筋肉細胞へと分化する段階では、METTL3とYTHDF2を介した経路がMef2aという分化に関わる遺伝子のmRNAを安定化させ、分化を促進していたとされています。つまり、同じMETTL3という酵素が、増殖期と分化期という異なる局面で、異なる標的分子・異なる仲介役タンパク質を使い分けている可能性が示された形です。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

今回の研究は、乳酸菌が作り出す代謝物(リボフラビン)が宿主の遺伝子発現の仕組み(m6A修飾)に影響を与えるという、腸内細菌と宿主をつなぐ新しい経路の一端を示したものです。ただし、これはマウスを用いた動物モデルでの検討であり、人での効果を直接示したものではありません。また、対象となったのは特定の菌株であるL. plantarum WY2401であり、乳酸菌全般に同様の効果があるかどうかは、この研究だけからは判断できません。一つの基礎研究として得られた知見であり、筋肉機能の改善や特定の健康効果を保証するものではない点に留意する必要があります。

まとめ

本研究は、乳酸菌L. plantarum WY2401が生み出すリボフラビンが、血流を介して筋肉に届き、mRNAのm6A修飾を調節する仕組みを通じて筋肉のもとになる細胞の増殖・分化に関わっている可能性を、マウスを用いた実験で示したものです。腸内細菌と骨格筋の健康との関係を分子レベルで理解するための一つの手がかりとなる研究といえますが、今後さらなる検証が必要な段階にあります。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiaqi Liu, Tongyudan Yang, Fangfang Lou, et al. Lactiplantibacillus plantarum WY2401 promotes myogenesis via riboflavin-mediated modulation of METTL3-dependent mRNA m6A methylation. ジャーナル・オブ・アドバンスト・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.jare.2026.08.015. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.