豆類には、体内の酸化ストレスに関わるとされるポリフェノール(フェノール成分)が含まれていますが、その多くは豆の細胞壁などに結合した状態で存在し、そのままでは体内での利用や抽出がしにくいとされています。今回紹介する研究は、この『結合型』のフェノール成分を加工によって取り出しやすくできるかどうかを調べたものです。対象となったのは、ビーチピー(Lathyrus maritimus L.)と、エンドウの一種であるダンピー(Pisum sativum var. avense)という、あまり広く利用されていない2種類の豆です。
研究チームはカナダ・メモリアル大学ニューファンドランド校の研究者らで、これらの豆に対して『蒸気爆砕処理(SE)』と『高圧処理(HPP)』という2つの異なる加工方法を施し、フェノール成分にどのような変化が起こるかを比較しました。
研究でわかったこと
フェノール成分は、その存在の仕方によって『遊離型(FP)』『エステル型(EP)』『配糖体型(GP)』『不溶性結合型(IBP)』の4つの画分に分けて分析されました。未処理の豆では、フェノール成分の多くが細胞壁などに強く結びついた不溶性結合型(IBP)として存在していたことが確認されています。
ところが蒸気爆砕処理・高圧処理のどちらを行った場合でも、不溶性結合型(IBP)、エステル型(EP)、配糖体型(GP)の割合が減り、代わりに遊離型(FP)の割合が増えるという変化が見られました。これは、加工によって結合していたフェノール成分が『解き放たれ』、より取り出しやすい形に変わったことを示しています。UHPLC-QTOF-MS/MSという分析機器を用いた詳細な成分分析では、フェノール酸・フラボノイド・スチルベンを含む合計20種類のフェノール化合物が同定され、処理によって各画分への分布が変化する様子が確認されました。
2つの処理方法を比べると、蒸気爆砕処理の方が結合型フェノールを遊離させる効果は大きかったものの、フェノール成分全体としての損失も大きくなる傾向が見られました。一方、高圧処理は処理条件がより穏やかであるため、フェノール成分全体をより多く保持できたと報告されています。さらに、遊離型(FP)画分の機能性についても調べられ、一酸化窒素やペルオキシルラジカルに対するラジカル消去活性の向上、糖の消化に関わる酵素であるα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼへの阻害作用の向上、さらに低密度リポタンパク質(LDL)の酸化やDNA鎖の切断に対する保護作用の向上が認められたとされています。ただし、こうしたフェノール成分の遊離や機能性向上の程度は、ビーチピーとダンピーの間で異なっており、豆の種類ごとの成分構造の違いが結果に影響することが示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、蒸気爆砕処理や高圧処理といった加工技術が、あまり利用されてこなかった豆類のフェノール成分を取り出しやすくし、機能性を高める可能性を示したものです。ただし、これは実験室レベルでの成分分析や抗酸化活性などの評価に基づく一つの研究であり、豆を食べた際に人の健康にどのような影響があるかを直接示したものではありません。また、効果の程度は豆の種類によって異なることも報告されており、結果を他の豆類や食品全般に単純に当てはめることはできない点に注意が必要です。
まとめ
この研究では、蒸気爆砕処理と高圧処理という2つの加工法が、ビーチピーとダンピーに含まれる結合型のフェノール成分を遊離させ、抗酸化活性や消化酵素阻害などの機能性を高める可能性が示唆されました。今後、こうした加工技術が未利用の豆類を活用した機能性食品素材の開発に役立つ可能性があるとされていますが、これはあくまで一つの研究段階の知見であり、実用化や健康効果を断定するものではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Santhiravel S, Shahidi F. Impact of steam explosion and high-pressure processing on phenolics of beach pea and Dunn pea: a comparative evaluation of their functional benefits. フード・プロダクション・プロセッシング・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1186/s43014-026-00411-x. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.