著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
ワインやジュースの製造では、果物の皮や種、茎などからなる搾りかすが大量に生じます。著者らは、こうした食品加工の副産物には、酸化を抑える働きをもつポリフェノール類が含まれていることに着目しました。食品の脂質の酸化防止には、BHAやBHTといった合成酸化防止剤が使われてきました。一方で、これらについては規制面での見直しが進み、添加物の少ない表示を求める消費者の声も高まっています。
研究チームは、ブドウ、リンゴ、洋ナシの搾りかすから得た抽出物の抗酸化性を探索的に調べました。そのうえで、二つの使い方を試しています。一つはギー(バターを加熱して水分と乳固形分を除いた油脂)に直接加える方法です。もう一つは、キトサン(カニ殻などに由来する生分解性の素材)でつくった包装フィルムに抽出物を練り込み、バターを包む方法です。ギーはほぼ水分を含まないため微生物による劣化が起こりにくく、日持ちは主に脂肪の酸化によるにおいや品質の劣化で決まります。
抽出条件と抽出物の性質
著者らは、乾燥させた搾りかすを4℃で溶媒に浸して成分を抽出しました。溶媒には水とエタノールを、浸す時間には24時間と48時間を用い、これらを組み合わせて比べています。その結果、三種類の搾りかすのいずれでも、水よりエタノールのほうがポリフェノール量と抗酸化力が高くなりました。抽出時間を48時間に延ばすと値は増え、統計的に意味のある差が出たのは主にエタノールで抽出した場合でした。
搾りかすの種類で比べると、ブドウ由来の抽出物がポリフェノール量、抗酸化力ともにリンゴや洋ナシより大きく上回りました。リンゴと洋ナシの間には、多くの指標で明確な差はありませんでした。ラジカル(反応性の高い不安定な分子)を半分まで減らすのに必要な濃度で比べると、ブドウ抽出物はリンゴや洋ナシの抽出物より少なくとも94%低い濃度で済みました。ただし著者らは、ブドウの搾りかすがワイン醸造で発酵を経ており、リンゴや洋ナシは発酵していないジュースの搾りかすだった点を指摘しています。このため、差を果物の種類だけによるものとは言えないとしています。
ギーとバターでの主な結果
ギーの試験では、エタノールで48時間抽出した各抽出物を同じ体積ずつ加えました。比較対象には、抽出物を加えないギーと、規制上の上限量にあたる200mg/kgのBHA/BHT混合物を加えたギーを用いています。抽出物を同じ体積で加えたため、実際に入ったポリフェノール量は試料ごとに異なり、ブドウ抽出物が最も多くなりました。これらを30℃、45℃、60℃で35日間保存し、脂肪の分解や酸化の進み具合を示す指標を追跡しました。
35日目の時点で、酸化の指標が最も高かったのは無添加のギーで、最も低かったのはブドウ抽出物を加えたギーでした。初期値と比べると、無添加ではおよそ3〜7倍、ブドウ抽出物ではおよそ1.5〜3倍に増えました。洋ナシ抽出物とBHA/BHTは、どちらも2〜4倍程度の中間的な増加で、両者に明確な差はありませんでした。リンゴ抽出物は、30℃では一部の指標で無添加より低い値でしたが、45℃と60℃では無添加に近い増え方でした。保存中の色の変化は主に黄色みが増すことによるもので、これを最も抑えたのもブドウ抽出物でした。
バターの試験では、抽出物を含むキトサンフィルムでバターを包み、室温(21℃)と30℃で15日間保存しました。比較には、抽出物を含まないキトサンフィルムと市販のポリエチレン製ジッパー袋を用いています。酸化の指標が最も高かったのは抽出物なしのキトサンフィルムで、最も低かったのはブドウ抽出物入りのフィルムでした。洋ナシ抽出物入りのフィルムは市販のポリエチレン袋と同程度で、リンゴ抽出物入りのフィルムはそれらより高い値でした。
研究が示すこと
この研究は、廃棄されがちな果物の搾りかすから低温で抽出した成分が、今回の条件のもとで乳脂肪の酸化を遅らせうることを示しました。特にブドウの搾りかす由来の抽出物は、ギーに加えた場合も包装フィルムに使った場合も、比較した試料の中で最も酸化を抑えました。ただし、ギーでの比較は各試料の添加量が異なる条件で行われており、合成酸化防止剤は同じ量ではなく規制上限量での基準として置かれています。著者らはこの研究を探索的な評価と位置づけています。そのうえで、搾りかすを食品の品質保持に活かす可能性の一端を示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Hernández-Montesinos IY(Instituto Politécnico Nacional, Centro de Investigación en Biotecnología Aplicada, Carretera Estatal Santa Inés Tecuexcomac-Tepetitla, km 1.5, Tepetitla de Lardizábal 90700, Tlaxcala, Mexico.)、Carreón-Delgado DF(Instituto Politécnico Nacional, Centro de Investigación en Biotecnología Aplicada, Carretera Estatal Santa Inés Tecuexcomac-Tepetitla, km 1.5, Tepetitla de Lardizábal 90700, Tlaxcala, Mexico.)、Castro-López LDR(Facultad de Enología y Gastronomía, Universidad Autónoma de Baja California, Carretera Transpeninsular Ensenada-Tijuana No. 3917, Colonia Playitas, Ensenada 22860, Baja California, Mexico.)、Ramírez-López C(Instituto Politécnico Nacional, Centro de Investigación en Biotecnología Aplicada, Carretera Estatal Santa Inés Tecuexcomac-Tepetitla, km 1.5, Tepetitla de Lardizábal 90700, Tlaxcala, Mexico.)、Lazo Zamalloa O(Instituto Politécnico Nacional, Centro de Investigación en Biotecnología Aplicada, Carretera Estatal Santa Inés Tecuexcomac-Tepetitla, km 1.5, Tepetitla de Lardizábal 90700, Tlaxcala, Mexico.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hernández-Montesinos IY, Carreón-Delgado DF, Castro-López LDR, et al. Application of Antioxidants from Agro-Industrial By-Products in Dairy Fat Systems: Oxidation Kinetics of Ghee and Active Packaging for Butter. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-20. DOI: 10.3390/foods15203736. 原著ライセンス:CC BY.