小麦は世界80カ国以上でカロリーとタンパク質の主要な供給源となっている作物です。人口増加にともない需要はさらに高まると見込まれていますが、エジプトのように国内生産だけでは消費量を大きく下回る国もあり、砂漠を農地に転換した「造成砂質土壌」での栽培拡大が進められています。ただし砂質土壌は水や養分を保持する力が弱く、乾燥や栄養不足のストレスを受けやすいという弱点があります。今回紹介する研究は、こうした厳しい条件下で小麦の生育や収量、さらには子実(穀粒)の栄養価をどう底上げできるかを、複数の「バイオスティミュラント(生育刺激資材)」を組み合わせて検証したものです。

どんな資材を、どう組み合わせて試したのか

研究チームはエジプトの小麦品種「Sakha-94」を用い、2020/2021年と2021/2022年の2作期にわたり、ナイルデルタ西部のヌバリア地区にある研究農場で野外試験を行いました。試験区は分割区法で3反復設計とされています。

まず種子の処理として、リン酸溶解能を持つ糸状菌である Trichoderma harzianum(TD)と Aspergillus niger の複数株(PSF)を混合した資材を種子にコーティングして播種する区(TD+PSF区)と、接種しない区を設けました。A. niger はリン酸だけでなくカリウムも溶解できるほか、インドール酢酸(IAA)やジベレリンといった植物成長を促すホルモン様物質、さらにセスキテルペン類(β-カリオフィレンなど)を生成することが知られている菌として紹介されています。次に、この接種の有無を掛け合わせる形で、葉面散布処理として硫酸カリウム(K2SO4、200mg/L)、必須アミノ酸の一種であるトリプトファン(50mg/L)、両者の混合(K2SO4 200mg/L+トリプトファン50mg/L)、そしてバナナの皮の抽出物(BPE)を500mg/Lまたは1000mg/Lの濃度で散布する区を用意しました。散布は播種後45日と60日、小麦が分げつ期から伸長期にあたる4〜5葉期のタイミングで行われています。

バナナの皮の抽出物は、エジプト・カイロの市場で入手した「Grand Naine(Musa cavendishii)」という品種の皮を乾燥・粉末化し、水で抽出・遠心分離・濃縮・凍結乾燥して調製されました。分析の結果、この皮の粉末には乾燥重量あたり炭水化物が68.31mg/g、全遊離アミノ酸が12.65mg/g、タンパク質が7.58mg/g、総フェノール化合物が43.1mg/g含まれていたほか、窒素・リン・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどのミネラルも確認されており、廃棄されがちなバナナの皮に生育刺激成分がまとまって含まれている点が実験の出発点になっています。

組み合わせでどんな変化が観察されたか

収量に関しては、TD+PSFの接種とBPE1000mg/Lの葉面散布を組み合わせた区で最も高い改善が見られ、無処理区と比べて茎葉収量が34.2%、生物学的収量(茎葉と子実を合わせた総収量)が38.9%、子実収量が44.1%それぞれ増加したと報告されています。灌水量あたりの子実生産量を示す「水利用効率」もこの組み合わせで最大44.1%向上したとされました。

生育や生理的な指標にも変化が見られました。葉のクロロフィルaは31.4%、クロロフィルbは83.6%、総色素量は48.2%、フェノール化合物は18.9%、それぞれTD+PSFとBPE1000mg/Lの組み合わせで最大の増加を示したとされています。また、植物ホルモンであるIAAの含量は、TD+PSFと硫酸カリウム+トリプトファンの組み合わせで34.9%増加し、調べた処理の中で最大の伸びだったと報告されています。播種から75日目に測定された草丈や分げつ数、根や茎葉の重量についても、多くの処理区で無処理区より有意に高い値が確認されました。

子実の栄養成分についても複数の指標が報告されています。炭水化物含量はTD+PSFとBPE1000mg/Lの組み合わせで12.5%増加し最大となった一方、タンパク質含量はTD+PSFとBPE500mg/Lの組み合わせで33.2%増加し最大になったとされ、濃度によって効果の出方が異なる結果が示されています。ミネラル含量では、TD+PSFと硫酸カリウム+トリプトファンの組み合わせで窒素が33.2%、リンが41.7%、カリウムが16.2%、マグネシウムが44.2%、それぞれ増加したと報告されました。さらに、子実に含まれる必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比率は、TD+PSFと他の処理を組み合わせた区でおよそ12〜15%高まったとされ、著者らはこれを人の食事における栄養的価値の向上を示す所見として位置づけています。

この研究をどう読むか

この研究は、糸状菌の接種・カリウムやアミノ酸の葉面散布・農業廃棄物であるバナナの皮の抽出物という、由来の異なる複数のバイオスティミュラントを組み合わせることで、砂質土壌という制約の大きい条件下でも小麦の生育や収量、子実の栄養価に上乗せの効果が得られる可能性を示したものです。著者らは、バナナの皮の抽出物と有用糸状菌の組み合わせが低コストで環境負荷の少ない資材となりうる点、および廃棄物である皮の持続的な利用につながる点を成果として挙げています。

一方で、この研究はエジプトの特定の砂質土壌・特定の小麦品種・2作期分の野外試験に基づくものであり、A. niger の菌株は形態的な特徴のみで識別され、遺伝子レベルでの同定は行われていない点も記載されています。異なる土壌条件や気候、品種でも同様の効果が再現されるかどうかは、この論文の範囲だけでは判断できません。一つの野外研究の結果であり、実用化に向けてはさらなる検証が必要な段階だといえます。

まとめ

糸状菌の接種と、カリウム・アミノ酸・バナナの皮由来成分といった非微生物系資材を組み合わせることで、砂質土壌で育てた小麦の生育・収量・子実の栄養成分に望ましい変化が見られたと報告されています。特にバナナの皮の抽出物を高濃度で用いた組み合わせが、収量や水利用効率、色素・フェノール含量などで最も大きな変化を示したとされていますが、これは特定の条件下での知見であり、今後の追加研究による検証が待たれます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:MMS Abdallah, TNM El Sebai, BA Bakry, et al. Combined effect of microbial and non-microbial biostimulants on wheat growth, yield, and grain nutritional quality under sandy soil conditions. BMCプラント・バイオロジー (2026). DOI: 10.1186/s12870-026-09659-4. 原著ライセンス: cc-by.