著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Jurnal Jamu Indonesia
ライセンス: CC BY-NC-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
東南アジアなどで食されている酸味の強い果実、ゴレンシ(学名Averrhoa bilimbi L.、和名ビリンビとも呼ばれる)には、抗酸化作用や糖の消化に関わる酵素への働きかけが期待される成分が含まれると考えられています。今回インドネシアのパクアン大学薬学部の研究グループが、この果実から有効成分を取り出す際の『抽出方法の違い』に着目し、実験を行いました。同じ果実でも、どうやって成分を取り出すかによって得られる抽出物の性質が変わるのか、という点を確かめた研究です。
2つの抽出方法を比較
研究チームは、ゴレンシの果実から70%エタノールを使って成分を取り出す際に、『マセレーション(浸漬法)』と『超音波支援抽出(UAE)』という2つの方法を用意し、それぞれで得られた抽出物を比較しました。マセレーションは溶媒に漬け込んでじっくり成分を溶け出させる伝統的な方法で、UAEは超音波の振動を利用して短時間で成分を引き出す方法です。
比較した項目は、抽出物の収量(どれだけ量が取れたか)、総フェノール含量(TPC)、総フラボノイド含量(TFC)、DPPHという試薬を使った抗酸化活性の測定、糖の分解に関わるα-グルコシダーゼという酵素への阻害活性、そしてLC-HRMS(高分解能質量分析を使った液体クロマトグラフィー)による含有成分のプロファイリングです。
研究でわかったこと
収量については、マセレーションの方が高く16.23%、UAEは11.16%という結果でした。一方で、フェノールとフラボノイドの含有量(TPC・TFC)は両方法でおおむね同程度だったと報告されています。
ところが抗酸化活性や酵素阻害の強さを見ると、UAEの方がより低い(つまり少ない量で効果を発揮する)IC₅₀値を示しました。具体的には、DPPHによる抗酸化活性のIC₅₀はUAEが37.06±0.27µg/mL、マセレーションが51.59±0.21µg/mLでした。α-グルコシダーゼ阻害活性のIC₅₀も同様の傾向で、UAEが23.94µg/mL、マセレーションが33.45µg/mLだったとされています。つまり、収量自体はマセレーションの方が多く取れる一方、超音波を使ったUAEの抽出物の方が同じ量あたりでは強い抗酸化・酵素阻害の働きを示した、という結果です。
さらにLC-HRMSによる解析では、抽出物中に含まれる成分について24種類の暫定的または推定的な候補が同定され、そのうち7種類について詳しく解釈が加えられたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究には、結果を読み解くうえで著者ら自身が明記している重要な限界があります。各抽出方法は1回ずつしか行われておらず、分析時の測定値は同じサンプルを繰り返し測った『技術的反復』にとどまるため、マセレーションとUAEの間で見られた違いはあくまで記述的な傾向として捉えるべきだとされています。また、LC-HRMSによる成分の同定はあくまで定性的なもので、特定の成分がどれだけ濃縮されているかを定量的に示したり、特定の成分が効果の原因であると証明したりするものではない、と著者らは述べています。
ゴレンシという果実そのものに馴染みのない読者もいるかもしれませんが、この研究は特定の食品を『体に良い』と断定するものではなく、抽出条件の違いが成分の取れ方や活性の強さにどう影響しうるかを探る基礎的な比較実験と位置づけられます。
まとめ
この研究では、ゴレンシ果実からの成分抽出において、マセレーションは収量に優れ、超音波支援抽出(UAE)は抗酸化活性やα-グルコシダーゼ阻害活性の面で優れた傾向を示したと報告されています。ただし各条件が1回ずつの実験に基づく記述的な比較であることから、これらの差が確定的な結論というよりも、今後さらに検証を重ねるべき手がかりとして受け止めるのが適切だと考えられます。
原著論文の著者・所属:Lilik Sulastri(Department of Pharmacy, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Pakuan University, Bogor, 16143, West Java)、Siti Nurul Habibah(Department of Pharmacy, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Pakuan University, Bogor, 16143, West Java)、Ema Hermawati(Department of Pharmacy, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Pakuan University, Bogor, 16143, West Java)、Rikkit Rikkit(Department of Pharmacy, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Pakuan University, Bogor, 16143, West Java)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Lilik Sulastri, Siti Nurul Habibah, Ema Hermawati, et al. LC-HRMS Metabolite Profiling, Antioxidant, and α-Glucosidase Inhibitory Activities of Averrhoa bilimbi L. Fruit Extracts by Maceration and Ultrasound-Assisted Extraction. ジュルナル・ジャムー・インドネシア (2026). DOI: 10.29244/jji.v11i4.535. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.