この研究は、タイの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Animal Bioscience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

採卵鶏の生産現場では、暑さや飼育密度、病原体などのストレスが体内の酸化バランスや腸の状態を乱し、産卵成績の低下につながることが課題とされています。そこで植物由来の成分を飼料に加える試みが行われてきましたが、こうした成分は消化管の中で壊れやすく、腸まで届きにくいという弱点がありました。

この研究チームは、スイートバジル(Ocimum basilicum)から採れる精油(スイートバジル油)に着目しました。ナノ粒子とは、有効成分を非常に小さなカプセルに包み込んで安定させ、目的の場所で放出させる技術です。研究チームは、スイートバジル油をナノ粒子化したもの(以下、ナノ粒子区)を採卵鶏に与えると、産卵成績や卵の品質、腸の形態、抗酸化能力、盲腸内の細菌の集まり(細菌叢)にどのような影響が出るのかを調べることを目的としたと述べています。これまでの研究の多くは肉用鶏を対象としており、採卵鶏でバジル油のナノ粒子を検討した情報は限られていた点を、研究チームは出発点として挙げています。

何をどう調べたか

研究チームは、25週齢の褐色系採卵鶏225羽を3つの区に分け、各区5反復・1反復15羽として10週間飼育しました。与えた飼料は、(1)基礎飼料のみの対照区、(2)基礎飼料にスイートバジル油をそのまま500ppm加えた区、(3)基礎飼料にスイートバジル油のナノ粒子を500ppm加えた区の3種類です。ナノ粒子はアルギン酸ナトリウムとキトサンという天然の高分子で油を包んだもので、粒子の大きさは平均およそ132ナノメートル、油を包み込めた割合(封入効率)は約82%だったと報告されています。

使用したスイートバジル油の成分を分析したところ、エストラゴール(メチルチャビコール)が77.51%と最も多く、次いでリナロールが7.75%を占めていたとされています。飼育期間中は、毎日の産卵数と卵重から産卵率を算出し、飼料摂取量や卵の品質(卵殻の強さ・厚さ、卵白の高さ、卵黄の色など)も測定しました。さらに試験終了時には、小腸(十二指腸・空腸・回腸)の組織を顕微鏡で観察して絨毛(じゅうもう:栄養を吸収するための腸内壁のひだ)の高さや表面積を計測し、肝臓と十二指腸粘膜では抗酸化に関わる指標と、脂質が酸化されたときに生じるマロンジアルデヒド(MDA)の量を測定しています。盲腸の内容物については、16S rRNA遺伝子の解析によって細菌の構成を調べました。

報告された主な結果

産卵率について、研究チームはナノ粒子区が81.14%と最も高く、そのままの油を加えた区が76.95%、対照区が64.13%だったと報告しています。一方で、飼料摂取量、飼料要求率(卵1に対する飼料の量)、平均卵重には区による差は認められませんでした。卵の品質についても、卵殻の硬さや厚さ、卵白の高さ、卵黄の色などに有意な差はなかったとされています。

腸の形態では、ナノ粒子区で絨毛の高さと絨毛表面積が小腸の3つの部位すべてで改善したと報告されています。抗酸化に関する測定では、ナノ粒子区で十二指腸の総抗酸化能が最も高く、肝臓のカタラーゼ活性も高い値を示しました。脂質の酸化の指標であるMDAは、対照区と比べてナノ粒子区で52〜53%低下したと報告されています。

これに対し、盲腸の細菌叢は門(もん)レベルでも属レベルでも3区の間で大きくは変わらず、多様性の指標(アルファ多様性・ベータ多様性)にも有意な差は認められませんでした。研究チームは、この理由の一つとして、ナノ粒子の働きにより有効成分が腸の手前側で放出され、奥のほうまで十分な量が届かなかった可能性を挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、スイートバジル油をそのまま飼料に混ぜるのではなく、ナノ粒子として包み込んで与えることで、採卵鶏の腸の形態と体内の抗酸化の状態が改善し、産卵率が高まったことを報告しています。同じ配合量でも、成分をどのような形で届けるかによって結果が変わりうるという点が、この研究から読み取れる要点です。

同時に、盲腸の細菌叢には目立った変化がみられなかったことも報告されており、飼料添加物の効果がどの部位まで及ぶのかについては、まだ分かっていない部分が残されています。

著者:Suphasuta Tada(Faculty of Animal Science and Technology, Maejo University, Chiang Mai, Thailand)、Sureerat Thuekeaw(Faculty of Animal Science and Technology, Maejo University, Chiang Mai, Thailand. [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Suphasuta Tada, Sureerat Thuekeaw. Sweet basil oil nanoparticles as novel feed additives: impacts on productivity, intestinal morphology, antioxidant capacity, and microbiota in laying hens. Animal Bioscience 2026-09-01. DOI: 10.5713/ab.260348. 原著ライセンス:CC BY.