この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Chemistry & Biodiversity
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
イリドイドは、植物などに広く存在する二環性のモノテルペン類で、シクロペンタ[c]ピラン骨格という共通の基本構造をもつ化合物群です。近年、抗菌・抗ウイルス・抗炎症・抗酸化といった働きが報告され、注目が集まっている成分だと論文は説明しています。
ガマズミ属(レンプクソウ科)は北半球に広く分布する低木・小高木で、230種を超えるとされます。その一つであるオオデマリ(Viburnum macrocephalum f. macrocephalum)は中国原産で、江蘇省や浙江省などで広く栽培されています。中国の伝統医学では茎や葉が用いられてきたほか、近年の研究では花に抗酸化・抗菌・抗ウイルス的な性質があることが示されてきました。しかし著者らによれば、葉に含まれる成分についてはほとんど明らかにされていませんでした。そこで研究チームは、この植物の葉に含まれる成分を化学的に調べることを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは、2024年5月に中国・江蘇省揚州で採取したオオデマリの葉を用いました。乾燥させた葉4.2 kgをメタノールに浸して成分を抽出し、183 gの粗抽出物を得たうえで、シリカゲルやODS、Sephadex LH‐20といった各種のカラムクロマトグラフィー、さらに分取HPLCを繰り返して、成分を一つずつ分離していきました。
分離した化合物の構造は、質量分析(HRESIMS)による分子式の決定と、核磁気共鳴(NMR)による原子のつながり方の解析によって決めています。さらに、分子の立体的な向き(絶対配置)については、電子円二色性(ECD)スペクトルの実測値と、量子化学計算で求めた理論値とを照らし合わせる方法で決定しました。
得られた化合物の抗酸化性は、DPPHとABTSという2種類の試験管内アッセイで評価されました。いずれも、活性酸素のように不対電子をもつ「ラジカル」を化合物がどれだけ消去できるかを、溶液の色の変化で測る方法です。指標には、ラジカルを半分消去するのに必要な濃度であるIC50値(値が小さいほど消去力が強い)が用いられ、標準物質として抗酸化剤のトロロックスが比較対象に置かれました。
主な報告結果
研究チームは、これまで報告のなかった5種類のイリドイドを単離し、ビブレチンD〜H(化合物1〜5)と命名しました。あわせて、既知のイリドイドであるビブルンショシンD(化合物6)も得られています。データベース検索の結果、5種類はいずれも新規化合物であることが確認されたと報告されています。
抗酸化試験では、DPPH法において化合物2・5・6がIC50値36.58〜53.90 µMの範囲で活性を示しました。化合物1の活性は弱く(IC50 = 87.31 µM)、化合物3と4はIC50が100 µMを超え、活性なしと判定されています。とくに化合物6はIC50 = 36.58 µMと強い活性を示し、これは対照のトロロックス(IC50 = 41.12 µM)を上回る値でした。
ABTS法でも、化合物1・2・5・6がIC50値25.96〜58.47 µMの範囲で活性を示し、化合物3と4は同じく不活性でした。ここでも化合物6が最も強く(IC50 = 25.96 µM)、トロロックス(IC50 = 29.09 µM)を上回りました。化合物2も同程度の強さ(IC50 = 31.52 µM)を示しています。
著者らは構造と活性の関係を予備的に検討し、ラジカル消去能は水酸基(ヒドロキシ基)とエノールエーテル二重結合の存在に左右されるようだと述べています。実際、化合物2の水酸基をアセチル化した誘導体にあたる化合物3と4では活性が大きく低下しており、これは水酸基が失われたことで水素原子を受け渡す経路がなくなったためではないかと説明されています。また、化合物6が他より強い活性を示したのは、シンナモイルエステル構造をもつことと関係する可能性があると考察されています。
ただし著者らは、化合物6を除けば、単離されたイリドイド(化合物2と5)の消去活性は今回の試験では控えめな水準にとどまったとも述べています。また、DPPHとABTSはいずれもラジカル消去という近い側面を見る方法であるため、他の手法や細胞を用いた酸化ストレスのモデルを組み合わせた評価が、より包括的な判断につながるだろうと記しています。
この研究が示すこと
これまでガマズミ属の抗酸化に関する研究は主にフェノール性の成分に向けられており、イリドイド画分の抗酸化性は調べられてこなかったと著者らは指摘しています。今回の報告は、これまで成分がほとんど分かっていなかったオオデマリの葉から、新しい5種類のイリドイドを化学構造と立体配置まで含めて明らかにし、そのうちのいくつかが試験管内でラジカルを消去する働きをもつことを示したものです。身近に植えられている植物の葉にも、まだ記載されていない天然物が残されていることを具体的に示した成果といえます。
著者:Chen Ya-jiao(College of Bioscience and Biotechnology Yangzhou University Yangzhou China)、Hong‐Juan Zhou(College of Bioscience and Biotechnology Yangzhou University Yangzhou China)、Jia Chen(College of Bioscience and Biotechnology Yangzhou University Yangzhou China)、Jian‐Hua Shao(College of Bioscience and Biotechnology Yangzhou University Yangzhou China)、Chun‐Chao Zhao(College of Bioscience and Biotechnology Yangzhou University Yangzhou China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chen Ya-jiao, Hong‐Juan Zhou, Jia Chen, et al. Five New Iridoids From the Leaves of Viburnum macrocephalum f . macrocephalum and Their Free Radical Scavenging Activity. Chemistry & Biodiversity 2026-09-01. DOI: 10.1002/cbdv.71649. 原著ライセンス:CC BY.