日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
妊娠中の食事は、母親と赤ちゃんの健康にかかわる重要な要素です。研究チームは、日本国内で妊娠後期の食事内容を具体的に調べ、国が示す摂取の目安と照らし合わせたデータが限られている点に着目しました。
そこで、予定帝王切開で入院した日本人女性を対象に、入院前の1か月間の食事内容を把握し、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の値と比べることを目的としました。著者らは、この研究の狙いを特定の医療機関の限られた集団を記述することに限定しており、日本の妊婦全体や妊娠のほかの時期の食事を推定するものではないと明記しています。
また、比較に用いた基準値は、あくまで食事内容を見比べるための目安であり、一人ひとりの栄養が足りているかどうかを判定する診断上の線引きとして使ったものではない、という位置づけが繰り返し示されています。
どのように調べたか
調査は春日部市立医療センター産婦人科の単一施設で行われ、2022年10月から2024年4月までに予定帝王切開のために入院した日本人女性が対象になりました。入院という決まったタイミングで質問票に答えてもらえるよう、あらかじめ日程が決まっている入院に限定したと説明されています。多胎妊娠の人と日本人以外の人は対象から外されました。
食事内容は、入院当日に「食事歴質問票(DHQ)」という自記式の質問票を使って、過去1か月間について尋ねました。これは日本で開発され、妊婦を含めて妥当性が検討されている、習慣的な食事の量を推定するための調査票です。回答から、日本食品標準成分表にもとづく計算方法で、食品群ごとの量やエネルギー・栄養素の推定摂取量が算出されました。
栄養素の摂取量は、妊娠後期の付加量を含む「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の該当する値を100%として、その何%にあたるかという形で示されました。エネルギーの必要量は、身長から求めた標準体重に1kgあたり30kcalをかけ、妊娠後期の付加分450kcalを加える臨床でよく使われる方法で見積もられています。妊娠中の体重増加量は日本の産科診療ガイドラインの目安と比べられました。解析はすべて記述的なもので、サプリメントの利用状況は系統的には集められていません。したがって推定値は食品からの摂取分を表しています。
報告された主な結果
参加者は58人で、質問票の記入が不完全だった1人(1.7%)を除いた57人(98.3%)が解析対象になりました。平均年齢は34.4±4.7歳、妊娠前のBMIの平均は22.8±3.6kg/m²でした。
エネルギー摂取量の平均は1日1,866±573kcalで、個別に見積もられた必要量に対する割合の平均は89.6%でした。つまりエネルギーは必要量に近い水準だった一方で、いくつかの微量栄養素は基準値を大きく下回って報告されました。基準値に対する平均摂取割合が最も低かったのは鉄で44.9%、次いでビタミンDが49.3%、葉酸が55.8%でした。
基準値に届いた人数を見ると、鉄では0人(0%)、ビタミンDと葉酸ではそれぞれ2人(3.5%)、ビタミンB6は4人(7.0%)、マグネシウムは3人(5.3%)、亜鉛は4人(7.0%)でした。一方、ナトリウム(食塩に含まれる成分)の摂取量は平均で1日3,961±1,410mgあり、目標量である1日2,559mg未満の範囲に収まっていたのは5人(8.8%)だけでした。妊娠中の体重増加については、推奨される範囲の下限以上に達していた人が32人(56.1%)でした。
食品群では、野菜が1日あたり平均174±91g、果物が110.3±116.2g、魚介類が33.5±18.3gと報告されています。著者らは、これらの食品群が摂取の少なかった栄養素の供給源でもあることから、食べ方の傾向が結果に関係した可能性を挙げつつ、食品群と栄養素摂取の関係を直接検討したわけではないため、この解釈は探索的なものだと述べています。
この報告が示すこと
この研究から読み取れるのは、エネルギーの量が必要量に近いことと、個々の微量栄養素が基準値に達していることは必ずしも一致しないという点です。著者らは、摂取カロリーだけでなく、栄養素のバランスや栄養素密度にも目を向ける必要性を指摘しています。ナトリウムが目標量を超える一方でカリウムの平均が目安量付近だったことにも触れ、両者のバランスを考えることの意味を挙げています。
同時に、著者らは結果の読み方に明確な線を引いています。対象は予定帝王切開で入院した人に限られた選択的な集団であり、人数も少ないため、日本の妊婦全体に当てはめることはできないとされています。食事の申告は1時点の自記式調査にもとづくため、思い出し方の誤りや季節による変動の影響を受けうること、サプリメントの利用状況が集められていないため総摂取量は過小に見積もられている可能性があること、そして血液などで栄養状態を測ったわけではないため「栄養が不足している」ことの証明ではないことが、限界として挙げられています。
つまりこの報告は、ある医療機関の妊娠後期の女性たちの食事を、公的な目安と並べて丁寧に書き記した記述的な調査です。著者らは、より多くの施設と代表性のある集団を対象に、サプリメントの利用も系統的に把握する研究が必要だとしています。
著者:Hiroshi Miyabayashi(. Department of Pediatrics , Kasukabe Medical Center , Kasukabe , JPN)、Noriko Miyazawa(. Department of Pediatrics , Kasukabe Medical Center , Kasukabe , JPN)、Tatsuo Yamamoto(. Department of Pediatrics and Child Health , Nihon University School of Medicine , Itabashi , JPN)、Mai Quynh Nguyen(. Department of Applied Nutrition , Japan Nutrition University , Sakado , JPN)、Kinuyo Munakata(. Department of Applied Nutrition , Japan Nutrition University , Sakado , JPN)、Midori Natsume(. Wellness Science Labs , Meiji Holdings Co. Ltd , Tokyo , JPN)、Yoshitaka Nakamura(. Department of Pediatrics , Kasukabe Medical Center , Kasukabe , JPN)、Nobuhiko Nagano(. Department of Obstetrics and Gynecology , Kasukabe Medical Center , Kasukabe , JPN)、Ichiro Morioka(. Department of Applied Nutrition , Japan Nutrition University , Sakado , JPN)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hiroshi Miyabayashi, Noriko Miyazawa, Tatsuo Yamamoto, et al. Dietary Intake Relative to Japanese Reference Values During Late Pregnancy Among Japanese Women Undergoing Scheduled Cesarean Delivery: A Single-Center Cross-Sectional Study. Cureus 2026-09-22. DOI: 10.7759/cureus.116748. 原著ライセンス:CC BY.