中国には、トマトや唐辛子などを乳酸発酵させてつくる「紅酸湯(こうさんとう、red sour soup)」と呼ばれる伝統的な発酵調味料があります。酸味と辛味、そして鮮やかな赤色が特徴で、鍋料理やスープのベースとして使われてきました。同じ「紅酸湯」でも、使う原料の組み合わせによって味や色、栄養的な性質は変わるはずですが、その違いを科学的に整理した研究はこれまで十分ではありませんでした。今回紹介する研究では、原料の異なる3種類の紅酸湯を対象に、味や香りといった官能評価から、色や酸の成分といった理化学的な性質、さらにはポリフェノールなどの機能性成分や安全性に関わる指標まで、幅広い角度からその特徴を比較しています。

研究でわかったこと

この研究では、トマトのみを原料とした紅酸湯(T-RSS)、トマトと唐辛子を原料とした紅酸湯(M-RSS)、トマト・唐辛子・米酸(お米を発酵させてつくる酸)を原料とした紅酸湯(R-RSS)の3種類が分析されました。官能評価や理化学的な性質に加えて、ポリフェノールやフラボノイド、カプサイシン類、カロテノイド、有機酸といった成分が測定され、安全性に関わる項目も調べられています。

その結果、トマトと唐辛子を原料としたM-RSSは、ポリフェノール含量(100gあたりガロン酸当量161.89mg)と総フラボノイド含量(乾燥重量100gあたりルチン当量150.85mg)が、他の2種類に比べて有意に高いことが示されました。また、唐辛子特有の辛味成分であるカプサイシノイドは、唐辛子を含むM-RSSとR-RSSでのみ検出され、中でもノルジヒドロカプサイシンという成分が1gあたり1125.61μgと最も高い値を示したと報告されています。

色素成分については、ほとんどの試料でリコピン(0.125〜3.560μg/g)が主要なカロテノイドであり、有機酸ではほとんどの試料で乳酸が主成分(全体の14〜54%)を占めていたとされています。さらに多変量解析(複数の成分データを同時に扱って関係性を探る統計手法)により、カプソルビンやゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ルテインといった色素成分が、紅酸湯の赤みの強さ(a*値という色の指標)や特定の有機酸と有意な相関を示すことが明らかになりました。また、カプサイシンやジヒドロカプサイシンといった辛味成分は、ポリフェノールやビタミンC、酒石酸・シュウ酸、総フラボノイドと正の関連があることも示されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、原料の異なる紅酸湯の品質特性を横断的に比較し、品質評価や今後の機能性改良のための基礎的な参考情報を提供することを目的としたものです。特定の成分が多いことが直ちに健康への効果を意味するわけではなく、あくまで含有量や成分間の相関関係を明らかにした研究である点に注意が必要です。また、この研究で扱われたのは特定の3種類の紅酸湯であり、一つの研究として得られた知見であることも踏まえて読む必要があります。

まとめ

今回の研究では、原料の異なる3種類の紅酸湯を比較することで、トマトと唐辛子を組み合わせた紅酸湯にポリフェノールやフラボノイドが多く含まれること、唐辛子を加えた紅酸湯にのみ辛味成分のカプサイシノイドが検出されることなど、原料の違いが成分プロファイルに反映される様子が示されました。色素成分と赤みの強さ、辛味成分と抗酸化関連成分との相関関係も明らかにされており、今後、紅酸湯の品質評価や用途に応じた原料選択を考えるうえでの参考情報になると考えられます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる原料を用いた酸辣湯(紅酸湯)の多次元的特性評価:官能・理化学・生理活性・安全性の統合分析(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)