トマトはウイルス病に弱く、なかでもトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)は世界各地の栽培現場で収量に大きな被害をもたらす病害として知られています。病気への強さを優先して品種改良を進めると、味や栄養面がおろそかになるのではないかという懸念が生まれることもあります。コスタリカ大学の研究チームは、青枯病への耐性とTYLCVへの抵抗性遺伝子(Ty)を持つ3種類のトマト交配種を育成し、これらが病気に強いだけでなく栄養や機能性の面でもどのような特徴を持つのかを調べました。
何を、どうやって調べたのか
研究の対象は、育種によって作られた3つの交配種(H1、H2、H3)で、これらを親系統(P)および市販品種(C)と比較する形で分析が行われました。具体的には、たんぱく質や食物繊維、有機酸、ビタミンC、各種ミネラルといった理化学的な成分の測定に加え、HPLC-DADという分析手法によるカロテノイド(色素成分)の組成分析、UHPLC-HRMSという高精度な質量分析によるメタボライト(代謝物)プロファイルの解析、そしてラジカル消去能や脂質過酸化抑制能を指標とした抗酸化活性の評価が行われました。
研究でわかったこと
理化学分析では、たんぱく質、食物繊維、有機酸、ビタミンC、一部のミネラルにおいて交配種間で有意な差が見られ、なかでも交配種H1は比較的高い栄養価を示したと報告されています。カロテノイドについては、トマトの赤色を作る主要成分であるリコピンが最も多く検出され、交配種H2の果実全体でのリコピン含量は1967.25 mg/kg(乾燥重量あたり)と、調べた中で最も高い値を示しました。
メタボローム解析からは、アルカロイド、ポリフェノール、テルペノイドといった生理活性化合物の主要なグループが同定されています。抗酸化活性の評価では、交配種H2が脂質過酸化の抑制および総合的な抗酸化能において他の系統より有意に優れていることが示され、複数の抗酸化指標を統合したRACI(相対的抗酸化能指数)によってもこの結果が裏付けられました。さらに主成分分析という統計手法を用いると、交配種H1とH2は、含まれる生理活性化合物の組成や抗酸化活性のパターンにもとづいて他の系統と区別できることが示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、交配種H1とH2が病気への抵抗性に加えて、より好ましい栄養・機能性プロファイルを示したとまとめており、これは商業的に価値のあるトマト品種を選抜する際に、病害抵抗性以外の判断材料を育種プログラムに加える裏付けになるとしています。ただし本研究はコスタリカ大学で育成された特定の交配種と対照系統を対象とした一つの研究であり、この結果がトマト全般や他の栽培条件に当てはまるかどうかは今後の検証が必要です。健康への効果を直接示したものではない点にも留意が必要です。
なお、著者陣にはコスタリカ大学食品科学技術センターや医学部生化学科、コスタリカ国立バイオテクノロジー革新センター(CENIBiot)などコスタリカ国内の複数機関に所属する研究者が名を連ねており、日本の研究機関に所属する著者や日本の食品・生産に関する言及は本研究の情報には含まれていません。
まとめ
この研究は、ウイルス病に強いトマトを作る育種の過程で、栄養価や抗酸化活性といった品質面の特徴を同時に評価した点に意義があります。交配種H1とH2はそれぞれ栄養成分や抗酸化活性の面で他の系統より優れた傾向を示したと報告されていますが、これは一つの研究段階の知見であり、今後さらに多くの検証が積み重ねられていく分野だと言えます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Natália Barboza, Ana María Ramos, Gabriela Azofeifa, et al. Physicochemical characterization, bioactive compounds, and antioxidant activities of tomato hybrids with resistance to Tomato yellow leaf curl virus (TYLCV). ディスカバー・フード (2026). DOI: 10.1007/s44187-026-01243-x. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.