真っ赤なトマトは水分含量が90〜95%にも達し、そのままでは日持ちがしません。乾燥はこの水分を取り除いて保存性を高める代表的な方法ですが、乾燥温度が高すぎると縮みや変色、栄養成分の劣化を招くという悩ましい面もあります。エジプトのスエズ運河大学農学部の研究グループは、トマトをくし切りにした状態での対流乾燥(熱風を当てて水分を蒸発させる方式)に注目し、乾燥中に何が起きているかをコンピューターシミュレーションと赤外線サーマルカメラの両方から追いかける研究を行いました。
くし切りは、輪切りのように平たい形とは異なり、断面が複雑な立体形状をしています。著者らは、これまで輪切りトマトの乾燥を予測するモデルは作られてきたものの、くし切り特有の形状・サイズに対応した予測モデルはなかったと述べており、そこがこの研究の出発点になっています。
どのように調べたのか
研究チームは市場で仕入れた同じ熟度のトマトをくし切りにし、60℃・70℃・80℃の3つの温度に設定した対流式乾燥機(送風速度は毎秒約0.7メートル)で乾燥させました。ステンレス製の網かごに4切れずつトマトを並べ、1時間ごとに重さを量って水分の減り方を記録しています。トマトの初期水分は乾物あたり15.67kg(生の状態で約94%)で、これを最終的に乾物あたり0.17kgまで減らすのに、60℃で21時間、70℃で13時間、80℃で11時間かかったと報告されています。
温度の記録には2種類の方法が使われました。ひとつはトマトに直接差し込んだ熱電対、もうひとつはドライヤーの上約15センチに設置した高感度の赤外線サーマルカメラ(Optris Xi 400)で、2時間おきに表面温度と色の画像を撮影しています。これらの実測データを使って、COMSOL Multiphysicsという解析ソフトで作った三次元の数値シミュレーション(トマト内部の水分拡散と熱伝導、周囲の熱風の流れを連立させて解くモデル)の予測精度を検証しました。トマトの形は直径6センチの球を4等分したものとして近似し、乾燥中の縮み(収縮)は計算を単純化するためにあえて考慮していないという前提が置かれています。著者らは、この前提のために乾燥後半の局所的な水分勾配や境界付近の挙動には実際とのずれが生じうると注記しています。
乾燥後の品質については、色(CIE表色系のL*・a*・b*値と総合的な色差ΔE)、リコピン含量、DPPH法による抗酸化活性、フォーリン・チオカルト法による総フェノール含量を測定し、生のトマトと比較しています。
シミュレーションと実測はどれくらい一致したか
まず乾燥機内の熱風の流れ自体をシミュレーションしたところ、トマトのくし切りに近づくにつれて摩擦や境界層の影響で風速が落ち、くし切りの下側で最も遅くなり、上面を通過する際に加速するという複雑な流れのパターンが予測されました。乾燥速度そのものは、乾燥開始直後の1時間で80℃・70℃条件が乾物あたり毎時3.25・3.19、60℃条件が2.49という値を示し、温度が高いほど立ち上がりが速いことが確認されています。また、いずれの温度条件でも、含水率が一定のまま乾く「定率乾燥期」を経ずに、最初から水分の内部拡散に支配される「減率乾燥期」だけで進んだことも報告されています。
水分含量の予測精度は、二乗平均平方根誤差(RMSE)と統計指標のカイ二乗(χ2)で評価され、全体としてRMSE0.812、χ2 0.313という値が得られました。温度別に見ると80℃で最も誤差が小さく、60℃・80℃のように水分減少パターンが比較的単純な条件のほうが、70℃のような中間的な条件よりモデルが当てはめやすかったとされています。
シミュレーションではさらに、実験では直接見ることが難しいトマト内部の水分分布も可視化されました。80℃で乾燥させた場合、表面や端の部分から先に水分が減り、内部の中心部分はしばらく変化しない「足踏み」状態が続いたのち、外側の乾燥が進んでから減り始める様子が示されています。特に80℃では表面が早く乾いて硬い層(クラスト)ができ、内部の水分がそこに閉じ込められることで、色の劣化や褐変につながった可能性があると考察されています。一方60℃では、乾燥終了時までに部位ごとの水分差がほぼ解消され、より均一な乾燥になったとされています。
品質面では、70℃で乾燥させた場合にリコピンの保持率が最も高く、色の変化も小さかった一方、80℃で乾燥させた場合には抗酸化活性とフェノール含量の低下が相対的に小さかったという、温度によって守られる成分が異なる結果が報告されています。このことから、乾燥温度は乾燥にかかる時間だけでなく、トマトの栄養・品質価値にも影響することが示されたとまとめられています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、あくまでエジプトで入手した特定の熟度のトマトをくし切りにし、実験室規模の対流乾燥機で60〜80℃の3条件を比較した一つの検証結果です。モデルは乾燥中の収縮(形の変化)を考慮しない前提で作られており、著者ら自身、乾燥後半の局所的な挙動にはずれが生じうる可能性を認めています。また70℃条件ではモデルの誤差がやや大きく出ており、シミュレーションが常に実測と完全に一致するわけではない点も報告されています。リコピンや抗酸化活性、フェノール含量といった品質指標も、この特定の条件・分析方法のもとでの結果であり、乾燥トマトの健康効果を保証するものではありません。
まとめ
この研究は、トマトのくし切りを対流乾燥させる際の熱と水分の動きをコンピューターシミュレーションで予測し、赤外線サーマルカメラによる表面温度の実測データと照らし合わせて検証したものです。予測モデルは実験データとおおむね良く一致し、特に低めの温度でより高い精度を示したとされています。また、乾燥温度によってリコピンの保持や色の変化、抗酸化活性やフェノール含量の残り方が異なることも確認されました。著者らは、開発したモデルが今後トマト乾燥プロセスの最適化や品質管理に役立つ可能性があるとしていますが、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Omar Ahmed Hamed, Gamal ElMasry, Sherif Radwan, et al. Integrated CFD simulation and thermal imaging for monitoring convective drying of tomato wedges. フード・プロダクション・プロセッシング・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1186/s43014-026-00409-5. 原著ライセンス: cc-by.