水不足が深刻化する地域では、下水を処理したうえで農業用水として再利用する取り組みが進んでいます。節水につながる一方で、処理しきれずに残る微量の化学物質が作物に取り込まれ、品質や安全性に影響しないかという疑問も残ります。今回紹介するのは、この処理済み排水(TWW)で灌漑したトマトが、栄養成分や元素の組成にどのような違いを示すのかを、機械学習を使って詳しく調べた研究です。

研究チームはスロベニアのヨジェフ・シュテファン研究所などに所属する研究者らで、環境科学とコンピュータシステムの専門家が共同で取り組んでいます。

どのようにトマトを育てて比較したのか

この研究では、土壌で育てる方式(ライシメーター)と、土を使わない水耕栽培の両方でトマトを栽培しました。土壌栽培のトマトは、(1)通常の飲料水、(2)処理済み排水、(3)処理済み排水にビスフェノール類・非ステロイド性抗炎症薬・エストロゲン類・カフェインなど14種類の懸念化学物質(CECs)を1リットルあたり0.1ミリグラムの濃度で添加した水、という3種類の灌漑水で育てられました。水耕栽培のトマトは、これらの化学物質を加えた養液と加えていない養液の2条件で比較されています。

収穫したトマトは、糖類、有機酸、ポリフェノール、カロテノイド、アミノ酸、脂肪酸、そして各種元素という幅広い項目について分析されました。そのうえで、どの灌漑条件で育ったトマトかを見分ける機械学習の分類モデルを複数試し、成分データからどの処理区分のトマトかを予測できるかを検証しています。

AIは何を手がかりに見分けたのか

複数のモデルを比較した結果、決定木を使った分類モデルが最も良い性能を示し、5分割の層化交差検証という手法で88%の精度で灌漑処理の違いを識別できました。さらに、モデルがどの成分を重視して判断したかを解析できるSHAPという説明可能AIの手法を用いたところ、アスコルビン酸(ビタミンC)、パルミチン酸、マルガリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸といった代謝物、およびカドミウム(Cd)、コバルト(Co)、セシウム(Cs)、銅(Cu)、リン(P)、ナトリウム(Na)といった元素が、灌漑条件の違いを見分ける手がかりとして特に重要であることが示されました。

この結果は、処理済み排水での灌漑がトマトの代謝物や元素の組成に何らかの変化と関連しうることを示していますが、これらの成分の変化がトマトの安全性や品質にとって良い方向か悪い方向かを直接判定するものではありません。研究チームは、説明可能な機械学習が、こうした複雑な代謝反応の背後にある関係性を読み解く手段になりうると位置づけています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は特定の栽培条件・地域・トマト品種を対象にした一つの研究であり、処理済み排水での灌漑が作物全般に同じ影響を与えると結論づけるものではありません。また、機械学習モデルが着目した成分はあくまで統計的に処理区分を分ける手がかりとなったものであり、それらの成分の増減が健康にどのような意味を持つかについては、この研究だけでは判断できません。今回の記事で紹介した内容も、この一つの研究で得られた知見として捉えていただくのが適切です。

まとめ

この研究は、処理済み排水を使ったトマト栽培が、糖や有機酸、脂肪酸、ビタミンC、そしてカドミウムやリンなどの元素組成に変化と関連しうることを、説明可能な機械学習を用いて示しました。水資源の再利用という持続可能性の観点と、作物の品質・安全性という観点の両方を今後さらに検証していく必要があることを示唆する内容といえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Anja Vehar, Jan Drole, Tome Eftimov, et al. Explainable machine learning for assessing the metabolomic and elemental profiles of tomatoes irrigated with treated wastewater. フード・ケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.150616. 原著ライセンス: cc-by.