著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Advances Jurnal Ekonomi & Bisnis
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
学校給食は、子どもの健康だけでなく、教育への参加や家庭の暮らし、地域の食料供給にも関わる政策です。インドネシアでは「無償栄養給食(Makan Bergizi Gratis、略称MBG)」と呼ばれる大規模な学校給食政策が進められており、2024年の大統領令で国家栄養庁が設立され、2025年の大統領令でMBGの運営の枠組みが定められました。
研究チームは、このMBGが実際にどのように運営されているのか、そして給食の提供を妨げうる運営上の課題は何かを調べました。注目したのは、配送、食品の衛生と安全、献立、関係機関どうしの連携と監督です。あわせて著者らは、給食が提供されているという事実だけでは、子どもの栄養状態や学びが良くなったとは言えないという点を重視し、政策が目指す目標と、実際に確かめられた効果とを区別して考える必要性を論じています。
どのように調べたか
研究は、数値で効果を測るのではなく、現場の状況を言葉で記述して整理する質的・記述的な方法をとりました。MBGに参加する小学校を目的に応じて選び、校長、学校の栄養実施チーム、給食業者への聞き取りと、給食の配布や食事の様子の観察を行ったと説明されています。補助的な資料として、学校が毎月記録している児童の身長と体重も参照されました。
当初は、年齢に応じた体格指数(BMI)を用いて給食開始の前後を比べることも構想されていました。しかし論文によると、分析に使える開始前と開始後の測定結果や測定日、分類の基準などは報告されておらず、栄養面の効果は推定していません。また、対象校や観察期間、参加者数などの記述が限られているため、結果をほかの地域へどこまで当てはめられるかは判断しにくいと、著者ら自身が述べています。
主な結果:四つの運営上の課題
研究チームは、運営上の課題を四つの側面に整理しました。一つ目は物流と配送です。調理場所と学校の距離、険しい地形や島どうしの移動、天候に左右される輸送が、給食を時間どおりに届けるうえでの制約になりうるとしています。ただし、どれだけの学校で実際に遅れが生じたかを示した結果ではなく、あくまで運営上のリスクとして位置づけられています。
二つ目は食品の安全と量・質です。調理場の衛生、食材の扱い、運搬中の温度管理、年齢に合った盛り付けや量の決め方などが、互いに関係する品質上の懸念として挙げられました。三つ目は児童に受け入れられ、実際に食べられているかという点です。衛生的に作られた給食でも、食べられなければ効果は限られるため、提供した食数ではなく、児童の声や食べ残しなどで確かめるべきだと論じています。
四つ目は予算、連携、監督です。全国規模で多くの関係者が関わるため、調達、予算、監督、説明責任をつなぐ仕組みが欠かせないとしています。なお、学校ごとの予算記録や監査済みの費用データがないため、財政面の影響は推計していません。
子どもの栄養状態、出席、集中力、学業成績については、今回の分析では変化を確認できていないと明記されています。海外の研究では給食の効果が示唆されているものの、それをそのままMBGの児童に当てはめることはできない、というのが著者らの立場です。
この研究が示すこと
著者らは、四つの側面が互いに支え合う一つの仕組みだと強調しています。効率的な配送網があっても品質管理が弱ければうまくいかず、衛生的な調理も食べられなければ意味が薄れ、予算が十分でも監督が不十分なら質は保証されません。そのうえで、時間どおりに届いた食数、衛生点検の実施状況、献立の変更記録、苦情への対応、支出の記録といった、後から追跡できる指標で運営を見守ることを提案しています。これらは提案された指標であり、この研究で数えられた結果ではありません。
この論文の中心的な成果は、MBGがすでに子どもの健康や学びを改善したという証明ではなく、政策を運営するうえで優先して見るべき点を整理した枠組みです。給食という公的な取り組みが、本当に栄養や教育の支えになるかどうかは、調達から配送、食事、監督までの一つひとつが確実に機能するかにかかっている、という視点を示した研究だといえます。
著者:Delinda Berilani(Universitas Kebangsaan Republik Indonesia, Bandung, Indonesia)、Marsha Nur Salsabila(Universitas Kebangsaan Republik Indonesia, Bandung, Indonesia)、Moh. Ahdan Maulana(Universitas Kebangsaan Republik Indonesia, Bandung, Indonesia)、Ratu Zidni Nuha Alya Setiawan(Universitas Kebangsaan Republik Indonesia, Bandung, Indonesia)、Yulianah Yulianah(Universitas Kebangsaan Republik Indonesia, Bandung, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Delinda Berilani, Marsha Nur Salsabila, Moh. Ahdan Maulana, et al. Governance and Operational Challenges in Indonesia's Free Nutritious Meals Policy: Implications for School Nutrition. Advances Jurnal Ekonomi & Bisnis 2026-10-15. DOI: 10.60079/ajeb.v4i5.1115. 原著ライセンス:CC BY.