著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Urania Jurnal Ilmiah Daur Bahan Bakar Nuklir
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
インドネシアの首都ジャカルタに面するジャカルタ湾は、周辺地域にとって重要な水産物の供給源です。一方で、13の河川が流れ込む河口域でもあり、陸上の人間活動に由来するさまざまな汚染物質が海に入り込んでいます。その一つが重金属で、湾内の堆積物からは亜鉛(Zn)が平均58.53µg/g、最大で195µg/g検出されたという報告があります。
亜鉛は少量であれば生物に欠かせない必須元素で、300種類以上の酵素の構成成分にもなっています。しかし量が多すぎると、水生生物にも人にも有害になり得ます。電池や製錬などの産業で広く使われるため、環境中の濃度は人間活動によって上昇すると予測されています。
研究チームが注目したのは、河口域に多く生息する肉食性のシャコの一種、Harpiosquilla raphidea です。地域によっては高価な食材として扱われており、海中の重金属を体内にため込めば、食物連鎖を通じて人へ汚染を運ぶ経路になり得ます。著者らによると、ジャカルタ湾でこのシャコの亜鉛の生物濃縮を調べた研究はこれまで行われていませんでした。
そこで本研究は、海水中の亜鉛濃度、塩分、シャコの体重という三つの条件が、水を通じた亜鉛の取り込みと排出にどう影響するかを明らかにすることを目的としました。
放射性の亜鉛を目印にした実験
研究チームは、亜鉛の動きを追跡する目印として放射性同位体の亜鉛65(65Zn)を使いました。研究用原子炉で亜鉛金属に中性子を当てて亜鉛65をつくり、塩酸に溶かして実験に用いています。亜鉛65が出すガンマ線を測定すれば、生きたシャコの体内にどれだけ亜鉛が入ったかを日ごとに調べられます。著者らは、この方法には結果を素早く正確に得られ、実験に使う生物の数も減らせる利点があると述べています。
シャコはジャカルタ湾の漁業者から入手し、実験室の水槽で7日間、環境に慣らしてから実験に使いました。水槽は12基用意し、それぞれ2匹ずつシャコを入れています。最初の4基では海水中の亜鉛濃度を0.5〜2.0ppmの4段階に変え、次の4基では塩分を25〜31ppt(海水1kgあたりの塩類のグラム数)の4段階に、残る4基では約15〜40グラムの体重の異なるシャコを用いました。亜鉛にさらす期間は、濃度の実験で7日間、塩分と体重の実験で14日間です。その後、亜鉛65を含まないきれいな海水に移し、7日間かけて体内の亜鉛がどれだけ減るかを測りました。
結果の評価には、主に四つの指標を使っています。体が水中から亜鉛を取り込む速さを表す「取り込み定数」、体外へ出す速さを表す「排出定数」、体内の濃度が最終的に水中濃度の何倍になるかを示す「生物濃縮係数」、そして体内の亜鉛が半分に減るまでの日数である「生物学的半減期」です。
条件によって変わる亜鉛のたまり方
まず、どの条件でもシャコは亜鉛を体内に取り込み、きれいな海水に移すと亜鉛は日を追って減っていきました。
海水中の亜鉛濃度を高くすると、取り込み定数と排出定数はいずれも大きくなりました。生物濃縮係数は、0.5ppmで48.89mL/gだったのが、2.0ppmでは85.43mL/gに上がっています。一方、生物学的半減期は0.5ppmの18.73日から、2.0ppmでは10.50日に短くなりました。著者らは、亜鉛が速く効率よく蓄積されたのは、たんぱく質の特定の部分(硫黄を含む基)に結びつきやすい性質のためだと考察しています。
塩分を25pptから31pptへ高くすると、取り込み定数と排出定数はともに小さくなりました。生物濃縮係数は30.00mL/gから26.25mL/gへ下がり、生物学的半減期は10.50日から14.44日へ延びています。著者らは他の研究を引きながら、塩分は生物の浸透圧調節に影響するうえ、海水中の亜鉛の化学的な形も変えるため、生物が利用できる亜鉛の量が変わる可能性を指摘しています。
体重の重いシャコほど、取り込み定数と排出定数は小さくなりました。その一方で、生物濃縮係数は15グラムの37.04mL/gから40グラムの43.68mL/gへ、生物学的半減期は9.76日から18.24日へと、どちらも大きくなっています。体が大きいと、亜鉛の出入りはゆっくりになるものの、いったん入った亜鉛は長く体内にとどまる傾向が見られたことになります。著者らは、体の大きさに対するえらの表面積の割合が成長とともに小さくなることなどが関係している可能性に触れています。
研究が示すこと
研究チームは、海水中の亜鉛濃度、塩分、体重のいずれもがシャコの亜鉛の取り込みと排出に影響すると結論づけています。同じ生物でも、周囲の環境や体の大きさによって亜鉛のたまり方や体内にとどまる期間が変わるということです。
著者らは、こうした環境変化と生物濃縮の関係を理解することが、食用となる水産生物の安全性を把握し、食料の安全を守るうえで必要だと述べています。あわせて、放射性トレーサーを使えば少ない実験動物で正確な結果をその場で得られる点も、この方法の利点として強調しています。
原著論文の著者・所属:Chairuman(Research Center for Radioisotope, Radiopharmaceutical, and Biodosimetry Technology, Research Organization for Nuclear Energy-National Research and Innovation Agency, Indonesia)、Budiawan(Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Universitas Indonesia, Depok, Indonesia)、Heny Suseno(Research Center for Radioisotope, Radiopharmaceutical, and Biodosimetry Technology, Research Organization for Nuclear Energy-National Research and Innovation Agency, Indonesia)、Anung Pujiyanto(Research Center for Radioisotope, Radiopharmaceutical, and Biodosimetry Technology, Research Organization for Nuclear Energy-National Research and Innovation Agency, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chairuman, Budiawan, Heny Suseno, Anung Pujiyanto Bioaccumulation of Zinc by Mantis Shrimp (Harpiosquilla Raphidea) in Seawater: The Application of Nuclear Technique Using Radioactive Metal. Urania Jurnal Ilmiah Daur Bahan Bakar Nuklir 2026-10-22. DOI: 10.55981/urania.2026.13659. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。