この研究は、マレーシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:The Open Psychology Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
キムチや味噌、ヨーグルトのような発酵食品が、腸内の微生物を通じて心の状態に影響するのではないかという考え方があります。著者らは、これを「微生物ー腸ー脳軸」と呼ばれる経路として説明しています。特定の発酵食品や菌を使った管理された試験では、こうした食品が精神的な健康に働きかける可能性が示されてきました。
ただし論文によれば、東南アジアの実際の生活環境の中で、人々が普段からさまざまな発酵食品を食べている習慣が心理的な症状と関連しているかどうかは、はっきりしていませんでした。そこで研究チームは、マレーシアの大学生を対象に、発酵食品の摂取量とうつ・不安・ストレスの症状との関連を調べました。
どのように調べたか
調査は、マレーシアの公立大学に在籍する学部生212人を対象とした、ある一時点での状態を把握する横断的なオンライン調査として行われました。発酵食品の摂取は、伝統的な食品と市販の製品の両方を含め、その土地の食文化に合わせて調整した食物摂取頻度の質問票で尋ね、1週間あたりの食べた回数(サービング数)に換算されました。
心理的な症状は、マレー語版のDASS-21という、うつ・不安・ストレスを測るために妥当性が確認されている尺度で測定されました。解析では、1週間あたりの摂取が1回分増えるごと、および摂取量で4つのグループに分けた場合について、「中等度から極めて重度」の症状に当たるかどうかとの関連を統計的に推定しています。その際、社会人口学的な要因や健康に関する要因の影響を調整しています。
報告された主な結果
発酵食品の摂取量は、中央値で1週間あたり2.0回分でした。調整を十分に行ったモデルでは、摂取量は中等度から極めて重度のうつ(調整オッズ比1.04、95%信頼区間0.92〜1.16)、不安(同1.04、0.95〜1.13)、ストレス(同0.87、0.65〜1.05)のいずれとも統計的に意味のある関連を示しませんでした。摂取量を4分位に分けた解析や、量と症状の関係をなめらかな曲線で調べた解析でも、摂取が増えるほど症状が変わるという一貫した傾向はみられませんでした。
著者らは考察で、日常生活における多様な発酵食品のふつうの食べ方は、管理された介入研究で観察されたような作用をそのまま再現しないのかもしれないと述べています。その理由として、発酵食品に含まれる微生物の構成が食品ごとに大きく異なること、摂取量自体がそれほど多くないこと、そして対象が臨床的な患者集団ではない大学生であったことが、関連を検出しにくくした可能性を挙げています。
この研究が示すこと
結論として論文は、この東南アジアの大学生集団では、習慣的な発酵食品の摂取は心理的な症状の重さと独立した関連を示さなかったと報告しています。実験室で条件をそろえた研究の結果が、そのまま日常の食生活に当てはまるとは限らないことを示す一例です。
著者らはこの結果から、栄養と精神の関係を扱う研究には、それぞれの文化に即した設計と、作用の仕組みを踏まえた検討が必要だと指摘しています。
著者:Geoallen George(Dietetic and Food Services, Hospital Queen Elizabeth, Kota Kinabalu, Malaysia)、Vie Cheong Thong(Faculty of Medicine and Health Sciences, Universiti Malaysia Sabah, Kota Kinabalu, Malaysia)、Nicholas Tze Ping Pang(Faculty of Medicine and Health Sciences, Universiti Malaysia Sabah, Kota Kinabalu, Malaysia)、Assis Kamu(Faculty of Science and Natural Resources, Universiti Malaysia Sabah, Kota Kinabalu, Malaysia)、Chong Mun Ho(Faculty of Science and Natural Resources, Universiti Malaysia Sabah, Kota Kinabalu, Malaysia)、Walton Wider(Faculty of Business and Communications, INTI International University, Kuala Lumpur, Malaysia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Geoallen George, Vie Cheong Thong, Nicholas Tze Ping Pang, et al. Real-World Fermented Food Consumption and Depression, Anxiety, and Stress Symptoms in a Southeast Asian University Population: A Cross-Sectional Study. The Open Psychology Journal 2026-09-11. DOI: 10.2174/0118743501498699260909061902. 原著ライセンス:CC BY.