著者の所属・活動拠点の国は、韓国、中国です。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
納豆と同じく大豆を短期間で発酵させて作る韓国の伝統食品「チョングッチャン」。この食品にはネバネバのもととなる粘性物質「ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)」が含まれており、抗酸化作用など健康に関わる働きが報告されてきました。今回、韓国・高麗大学食品生命工学科などの研究グループが、このγ-PGAを多く作り出す納豆菌の仲間を突き止め、それを使って発酵させることでチョングッチャンの抗酸化力がどう変わるかを調べた研究を紹介します。
大豆発酵食品からγ-PGA産生菌を探す
研究チームはまず、チョングッチャンから分離した157株のバチルス属細菌(納豆菌の仲間)について、それぞれがどれくらいγ-PGAを作れるかを調べました。比較対象として、Bacillus velezensis、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus coagulansという4種の基準株も使われています。その結果、「CH7P29」と名付けられた菌株(16S rRNA解析でBacillus velezensisと確認)が、培養液1mLあたり602.80±6.55マイクログラムと、157株の中で最も多くγ-PGAを産生することがわかりました。これは基準株のBacillus subtilis(524.33±2.69)やBacillus velezensis(527.11±4.56)を上回る量です。同じチョングッチャン由来でも菌株ごとの産生量には大きなばらつき(標準偏差30.05マイクログラム/mL)があり、菌の種類だけでなく株ごとの個性が影響することも示されました。
次に、このCH7P29株が最もγ-PGAを作りやすい条件を探るため、培養温度(25〜50℃)と食塩濃度(0〜10%)を変えて実験しました。その結果、温度は40℃、食塩濃度は0〜2%のときに産生量が最大になりました。興味深いことに、温度を上げるほど菌自体の増殖はむしろ緩やかに減っており、菌の増殖量とγ-PGAの産生量が必ずしも比例しないことがうかがえます。また食塩濃度を8%まで上げても菌の生菌数はほぼ変わらなかったことから、CH7P29株は塩分への耐性が比較的高い可能性も指摘されています。
実際にチョングッチャンを発酵させてわかったこと
見つかった至適条件(40℃、食塩2%)のもとで、CH7P29株を種菌として大豆を4日間発酵させる実験が行われました。比較のため、Bacillus subtilis基準株を使った区(C1)、Bacillus velezensis基準株を使った区(C2)、そして種菌を加えない未接種区(B)も同時に用意されています。発酵の進み具合はpHや水分活性、生菌数、食感(硬さや粘りなどのテクスチャー特性)でも確認され、いずれも市販のチョングッチャン製品と近い値になったことから、正常に発酵が進んだと判断されました。
肝心のγ-PGA含有量は、発酵4日目の時点でCH7P29株を使った区が1gあたり16.02mgと最も高く、C1区(12.25mg)、C2区(11.38mg)を上回りました。未接種のB区ではγ-PGAは検出されませんでした。さらに抗酸化力の指標であるDPPHラジカル消去活性を測定したところ、CH7P29株を使った区は4日目に60%を超え、他の区(いずれも40%未満)より明らかに高い値を示しました。γ-PGA含有量と抗酸化活性の間には統計的に強い相関(相関係数0.95)が確認されています。
一方、抗酸化物質としてよく知られるポリフェノールの総量は、どの区でも発酵を通じてほぼ一定(1gあたりおよそ2000マイクログラム前後、没食子酸換算)で、大きな変動はありませんでした。この結果から、今回観察された抗酸化力の上昇はポリフェノールの変化ではなく、γ-PGAや微生物が作り出す代謝産物によるものと考察されています。実際、発酵4日目の時点で、CH7P29株を使った区の総抗酸化活性のうち37.40%をγ-PGAが占めると計算されました(C1区は30.81%、C2区は38.42%)。論文では、γ-PGAが持つ多数のカルボキシル基が酸化反応を抑えたり、鉄や銅などの金属イオンを捕捉してフェントン反応による活性酸素の発生を抑えたりする仕組みが関わる可能性が述べられています。
この研究をどう読むか
著者らは、γ-PGAには抗酸化作用のほか、肥満や糖尿病、一部のがん、神経変性疾患などへの関与を示唆する報告があることにも触れていますが、これらはあくまで一般的な知見の紹介であり、今回のチョングッチャンそのものでこうした効果が確認されたわけではない点に注意が必要です。また著者ら自身も、今回の抗酸化力の評価がDPPH法という試験管内での化学的な測定にとどまっており、人が実際に摂取した際の生理的な効果や、味・風味などの官能評価は今後の課題であると明記しています。DPPH法には、脂溶性の物質との反応性が低い、鉄還元力を測れないといった技術的な限界もあると述べられています。
研究チームは高麗大学(韓国)と四川農業大学(中国)に所属していますが、今回提供された情報の範囲では日本の研究機関や日本の食品との直接の関わりは記載されていません。チョングッチャンは短期間で発酵させる点で日本の納豆と共通する部分がありますが、両者を比較する記述は論文中にはなく、本記事でも比較は行っていません。
まとめ
この研究では、チョングッチャンから分離したBacillus velezensis CH7P29という菌株が、他の菌株や基準株と比べて多くのγ-PGAを作り出す能力を持つこと、そしてこの菌を使って発酵させたチョングッチャンでγ-PGA量と抗酸化活性がともに高まったことが示されました。ポリフェノール量は変わらなかったことから、γ-PGAが抗酸化力の変化に主に関わっていた可能性が示唆されています。ただしこれは一つの研究による知見であり、実際の健康効果や官能面での評価は今後さらに検証が必要とされています。
原著論文の著者・所属:Jong Hyoung Hong(Department of Food and Biotechnology, Korea University, Sejong 30019, Republic of Korea)、Young Hun Jin(Department of Food and Biotechnology, Korea University, Sejong 30019, Republic of Korea)、Shuxiang Liu(College of Food Science, Sichuan Agricultural University, Ya’an 625014, China)、Jae‐Hyung Mah(Department of Food and Biotechnology, Korea University, Sejong 30019, Republic of Korea)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jong Hyoung Hong, Young Hun Jin, Shuxiang Liu, et al. Enhancement of Poly-γ-glutamic Acid Formation and Antioxidant Activity in Cheonggukjang Fermented with Bacillus velezensis CH7P29. アンチオキシダンツ (2026). DOI: 10.3390/antiox15080985. 原著ライセンス: cc-by.