ヨーグルトなどの発酵食品に使われる乳酸菌は、生きた菌そのものだけでなく、菌が作り出す代謝産物にも注目が集まっています。こうした「ポストバイオティクス」と呼ばれる物質群には、抗菌作用を持つバクテリオシンや、発酵乳製品の食感や機能性に関わる菌体外多糖(エキソポリサッカライド、EPS)などが含まれます。アルメニアの国立科学アカデミー傘下の研究機関「Armbiotechnology」プロバイオティクス生物工学研究室などのグループは、これらの物質を組み合わせたときに抗菌力がどう変化するのかを、試験管内(in vitro)の実験で調べました。
研究チームはこれまでにも、ロバの乳を発酵させたマツォニ(伝統的な発酵乳)などから分離したエンテロコッカス属菌が、豊富なEPSやバクテリオシンを作ることを報告してきました。しかし、菌を混合して培養したときにこれらの物質同士がどう影響し合うかは、これまであまり調べられていませんでした。単純に「足し算」で効果が強まるのか、それとも打ち消し合うのか。この疑問に答えるのが今回の研究の狙いです。
研究でわかったこと
実験では、Enterococcus faecium(KE-5、KE-13、KE-14の3株)、Enterococcus durans(KE-6)、そしてLacticaseibacillus rhamnosus 2012という乳酸菌株を、ホエイ(乳清)をベースにした培地とMRS培地で培養しました。培養後の上清からバクテリオシンをセファデックスG-25、EPSをセファデックスG-50というゲろ過カラムでそれぞれ精製し、高速液体クロマトグラフィー(FPLC)で分子量を測定。抗菌活性は、グラム陰性菌であるサルモネラ菌(Salmonella typhimurium G-38)を指標菌として評価されました。
まず分子量を見ると、菌株によってかなりの違いがありました。バクテリオシンは0.6~1.5キロダルトンほどの比較的小さな分子である一方、EPSは17~40キロダルトンに達する高分子でした。抗菌活性の強さもEPSよりバクテリオシンの方が総じて高く、たとえばE. faecium KE-5が作るバクテリオシンは、抗生物質耐性を持つ菌株の増殖をおよそ9割抑える強い効果を示したと報告されています。
次に、精製したEPSとバクテリオシンを1対1の割合で混ぜ合わせ、30℃・pH4.0~4.5の条件で数十分反応させて抗菌活性を測定しました。その結果、EPSとバクテリオシンを混合すると、単独のときより抗菌活性がむしろ低下するという現象が確認されました。低下の幅は組み合わせによって10%から64%までとばらつきがあり、たとえばL. rhamnosus 2012由来のEPSとE. faecium KE-14のバクテリオシンを組み合わせた場合は64%もの低下が見られた一方、E. faecium KE-5の組み合わせでは10%程度にとどまるなど、菌株の由来やEPSの構造によって影響の大きさが異なっていました。なお、L. rhamnosus 2012由来のEPSは、E. faecium KE-13やE. durans KE-6のバクテリオシンとの組み合わせでは大きな変化を示さない場合もあったとされています。
著者らは、この抗菌力の低下が、高分子のEPSがバクテリオシンの周りに物理的な障壁を作ったり、電気的な性質によって結合したりすることで、バクテリオシンが標的の菌の細胞膜に働きかけるのを妨げている可能性があると考察しています。つまり、単純に「善玉物質を足せば効果も足し算になる」わけではなく、構造や由来の異なる物質同士の組み合わせ方次第で、期待した効果が弱まることもあるという指摘です。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、精製したバクテリオシンとEPSを用いた試験管内の実験結果であり、ヒトの体内や実際の食品中で同じ現象が起こるかどうかを直接示したものではありません。また、対象とした菌株や指標菌(サルモネラ菌)は限られており、ほかの菌の組み合わせや条件では異なる結果になる可能性があります。著者らは、複数の乳酸菌株を組み合わせてプロバイオティクス製剤を開発する際には、こうした菌株間の相互作用を考慮する必要があると述べています。
なお、著者らは考察の中で、酵母Kluyveromyces marxianus由来の多糖類とエンテロコッカス属のバクテリオシンを組み合わせた場合にも、同様の抑制パターンが見られたと触れており、EPSによる抗菌力の低下は乳酸菌由来のEPSに限った現象ではない可能性も示唆されています。
まとめ
今回の研究は、乳酸菌が作るバクテリオシンとEPSという2種類のポストバイオティクスを組み合わせたときに、抗菌効果がむしろ弱まる場合があることを示したものです。複数の菌株や成分を組み合わせれば効果が単純に上乗せされるという見方に一石を投じる結果であり、今後の機能性食品や製剤の設計において、成分同士の相互作用を丁寧に検証することの大切さを示す一つの研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Arevik Israyelyan, Kristina Karapetyan, Lev Khoyetsyan, et al. Interactions of postbiotics produced by different Enterococcus strains. ファンクショナル・フード・サイエンス (2026). DOI: 10.31989/ffs.v6i8.2012.