培養肉や昆虫食と並んで、微生物を使ってタンパク質をつくる「単細胞タンパク質(シングルセルプロテイン、SCP)」が、持続可能な代替タンパク源として注目されています。酵母や細菌などの微生物を培養し、その菌体そのものをタンパク源として利用する発想です。今回インドのGITAM School of Scienceの研究グループが発表した論文は、乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarumを使い、身近な食品由来の材料で単細胞タンパク質をつくったときに、できあがるタンパク質の性質が原料によってどう違うのかを比較したものです。

米のとぎ汁とパニール抽出液で乳酸菌を培養

研究チームは、発酵させた米のとぎ汁(fermented rice water)と、インドの家庭料理でよく使われるチーズの一種パニールの抽出液(paneer extract)という、2種類の食品由来の基質でLactiplantibacillus plantarumを培養しました。そのうえで、できあがった菌体(バイオマス)の量、含まれるタンパク質の量、そしてSDS-PAGE(タンパク質を大きさごとに分離する電気泳動法)やLC-ESI-MS/MS(液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた手法)を使った分子レベルの解析を行い、原料の違いがタンパク質の蓄積や種類の構成にどう影響するかを調べました。

とぎ汁培養は菌体量が少ないのにタンパク質は豊富という結果に

SDS-PAGE解析では、米のとぎ汁で培養したSCPのサンプルにおいて、分子量25〜75キロダルトンの範囲でバンド(タンパク質の帯)の濃さが強く出ることが確認されました。またLC-ESI-MS/MSによる詳細な分析では、両方の基質で得られたSCPのクロマトグラム上の全体的な構造(パターン)は似ている一方で、成分が溶出してくる時間帯の分布や、含まれる分子の多様性には基質による違いが見られ、特に中間から後半にかけて溶出する成分の領域でその差が目立ちました。統計解析でも、処理条件間の違いは有意であったとされています(P<0.05)。

興味深いのは、菌体そのものの量(湿重量ベースのバイオマス)と、そこに含まれる総タンパク質量が必ずしも一致しなかった点です。論文では、米のとぎ汁を使った培養では菌体量自体は少なめだったにもかかわらず、総タンパク質の蓄積はより多くなったと報告されています。研究チームはこれについて、基質の組成が乳酸菌の代謝の使い道(エネルギーや栄養をどこに割り振るか)を異なる形で調節している可能性を示唆する結果だと位置づけています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この論文は、実験室レベルでLactiplantibacillus plantarumと2種類の食品由来基質を組み合わせて行われた比較研究であり、単細胞タンパク質の生産にすぐ応用できる、あるいはヒトの栄養効果を裏付けるものではありません。あくまで、原料の違いがタンパク質の量や分子構成にどう影響しうるかを分子レベルで調べた基礎的な検討の一つです。今回の材料には日本の食品や研究機関への直接の言及はなく、インドの家庭料理に由来する食品(発酵させた米のとぎ汁、パニール)が対象とされています。

まとめ

今回の研究では、同じ乳酸菌Lactiplantibacillus plantarumであっても、培養に使う食品由来の基質が異なれば、生産される単細胞タンパク質の量や分子レベルでの構成に違いが生じることが示されました。特に発酵させた米のとぎ汁は、菌体量自体は少なくても総タンパク質量を高める傾向が見られ、基質選びが代替タンパク質の性質を左右しうる要因の一つであることが示唆されています。今後、こうした基礎データが持続可能なタンパク質生産の研究にどうつながっていくのか、さらなる研究の積み重ねが注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Koganti Taarana, Katikireddy Manaswini, J K Pallavi. Comparative molecular profiling of Lactiplantibacillus plantarum ‐derived single‐cell protein produced from food‐derived substrates. ジャーナル・オブ・ザ・サイエンス・オブ・フード・アンド・アグリカルチャー (2026). DOI: 10.1002/jsfa.71015.