この研究は、タイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Fermentation
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
発酵食品には、乳酸菌などの微生物が作り出すさまざまな代謝産物が含まれています。これらの中には、抗菌作用など生物学的な働きを持つ可能性があるものも報告されており、機能性食品の研究対象として注目されています。今回紹介する研究は、発酵キノコソーセージから分離された乳酸菌Lactiplantibacillus pentosus(ラクチプランティバチルス・ペントーサス)株「MRK2-3」が作り出す成分に着目し、胃の中に生息する細菌であるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)に対する働きを試験管内で調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、L. pentosus MRK2-3株が生産する、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)に感受性を示す抗ヘリコバクター・ピロリ成分「MRK2-3」を対象に、活性を指標とした濃縮と初期的な特性解析を行いました。この抗菌活性は、菌の増殖が定常期に入った段階で現れることが確認されました。
活性成分は、酢酸エチルによる抽出、Sep-Pak C18カラムによる精製、逆相HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という段階を経て濃縮され、比活性(単位量あたりの活性の強さ)は工程を追うごとに高まりました。ただし、最終的な活性の回収率は0.72%にとどまりました。MALDI-TOF(質量分析)による解析では、活性画分中に約m/z 1848の主要なイオンが検出されたほか、強度の低い複数のイオンも見られたため、この段階では化学的な均一性やアミノ酸配列の同一性は確定していません。
この画分の性質を調べたところ、pH2〜6の範囲や、80℃・100℃で30分間加熱した条件下では活性が保たれていました。一方、アルカリ性条件下や、121℃で15分間処理した場合には活性が低下しました。また、トリプシン、α-キモトリプシン、ペプシン、プロテイナーゼKといったタンパク質分解酵素で処理すると活性が低下することも確認され、この成分がペプチド(タンパク質の断片)である可能性を裏付けています。
試験した全てのH. pylori株に対して増殖阻害が見られ、寒天平板希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)は12.5〜100μg/mLの範囲でした。さらに、人工的に胃液を模した溶液(人工胃液)中でH. pylori 3949株を用いて試験したところ、より高い濃度で、生きた菌の数が速やかに減少することが観察されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
研究チームは、今回の結果はMRK2-3が発酵食品由来の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を持つ推定上の抗菌ペプチド候補であることを支持するものだとしつつも、いくつかの重要な課題が残されていると述べています。具体的には、このペプチドの正確なアミノ酸配列や構造上の同一性、既知の物質との違い(新規性)はまだ確認されていません。また、抗菌作用の仕組み、ヒトや動物の細胞に対する毒性の有無、生体内(in vivo)での有効性についても、今後明らかにする必要があるとされています。この研究は試験管内(in vitro)での初期的な検討であり、直ちに人での効果を示すものではない点に留意が必要です。
まとめ
今回の研究では、発酵キノコソーセージ由来の乳酸菌L. pentosus MRK2-3が生産する成分が、酸や熱に対して比較的安定でありながら、複数のH. pylori株に対して増殖を抑える働きを示し、人工胃液中でも活性を保つことが報告されました。ただし、成分の正体や作用の仕組みはまだ解明されておらず、今後さらなる研究による裏付けが必要な段階です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):発酵キノコソーセージから分離されたLactiplantibacillus pentosus由来の発酵食品由来推定抗ヘリコバクター・ピロリペプチド:活性誘導濃縮と人工胃液中での活性(ファーメンテーション・2026年08月)
著者:Kittaporn Rumjuankiat(College of Agricultural Innovation and Food Technology, Rangsit University, Pathum Thani 12000, Thailand)、Nipon Sonhom(College of Agricultural Innovation and Food Technology, Rangsit University, Pathum Thani 12000, Thailand)、Sujitra Techo(Microbial Diversity and Bioproducts Research Unit, Mahidol University, Nakhonsawan Campus, Nakhonsawan 60130, Thailand)、Ratha‐Korn Vilaichone(Center of Excellence in Digestive Diseases, Thammasat University Hospital, Thammasat University, Pathum Thani 12120, Thailand)、Sittiruk Roytrakul(National Center for Genetic Engineering and Biotechnology (BIOTEC), National Science and Technology Development Agency (NSTDA), Pathum Thani 12120, Thailand)、Janthima Jaresitthikunchai(National Center for Genetic Engineering and Biotechnology (BIOTEC), National Science and Technology Development Agency (NSTDA), Pathum Thani 12120, Thailand)、Thitiphorn Janyaphisan(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine Siriraj Hospital, Mahidol University, Bangkok 10700, Thailand)、Wonnop Visessanguan(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine Siriraj Hospital, Mahidol University, Bangkok 10700, Thailand)、Weerapong Woraprayote(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine Siriraj Hospital, Mahidol University, Bangkok 10700, Thailand)