この研究は、エジプトの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:色と栄養を保ったまま長く貯蔵するには

赤キャベツは鮮やかな赤紫色が特徴の野菜で、その色のもとになるアントシアニンや、フェノール化合物と呼ばれる成分を多く含みます。しかし収穫後も呼吸や水分の蒸散は続き、細胞を傷つける活性酸素などがたまる「酸化ストレス」も加わって、しおれ、色の劣化、軟化、褐変などが進みます。その結果、商品価値や貯蔵できる期間が下がってしまいます。

収穫後の野菜の劣化を遅らせる方法としては、低温・高湿度での冷蔵、袋の中の酸素と二酸化炭素の濃度を調整して包む「MAP(ガス置換包装)」、収穫直後に畑の熱を素早く取り除く「予冷」などが使われています。ただ、これらは主に周囲の環境を変える方法で、長期貯蔵中の酸化による傷みを十分に防げるとは限りません。

そこで研究チームは、食品に使える4種類の抗酸化物質(アスコルビン酸=ビタミンC、クエン酸、グルタチオン、α-トコフェロール=ビタミンEの一種)を、3通りの貯蔵方法と組み合わせました。それによって赤キャベツの品質がよりよく保たれるか、また抗酸化物質の効き方が貯蔵環境によって変わるかを調べました。著者らは、抗酸化物質と複数の貯蔵方法の組み合わせを同じ実験の枠組みで比べた知見は、赤キャベツではまだ限られていると述べています。

何を調べたか:5種類の処理と3種類の貯蔵法を組み合わせて比較

実験では、畑で栽培した品種「レッド・デーニッシュ」の赤キャベツを、市場に出せる熟度で収穫して使いました。蒸留水のみ(無処理の対照)と、4種類の抗酸化物質をいずれも500ppmの同じ濃度で処理した計5区を設けました。これを「通常の冷蔵(0℃前後、相対湿度約95%)」「冷蔵下のMAP」「予冷(0℃で24時間)の後にMAPで冷蔵」の3つの貯蔵方法と組み合わせ、計15通りの条件を比較しています。

MAPでは、キャベツを1玉ずつポリエチレンの袋に入れました。袋の中の空気を酸素2%・二酸化炭素6%の混合ガスに置き換えてから密封しています。その後のガス濃度は、キャベツの呼吸やフィルムを通したガスの出入りによって自然に変化するにまかせました。

貯蔵12週間の時点で、さまざまな項目を測りました。重さの減り方、硬さや食感、腐敗の割合、呼吸の速さ、成熟や老化に関わる植物ホルモンであるエチレンの量、色素や栄養成分の量を調べています。さらに、活性酸素の量や、活性酸素を分解する酵素の働き、細胞膜の傷み具合、細胞壁を分解する酵素の働きも測定しました。見た目や異臭については、訓練を受けた評価者が点数をつけました。2シーズンにわたって行った実験のデータは、まとめて統計的に分析されています。

主な結果:抗酸化処理で多くの品質指標が改善、ただし効き方は物質と貯蔵法で異なった

論文によると、抗酸化物質を処理したキャベツは、無処理のものに比べて全体として品質がよく保たれていました。重さの減少は抗酸化処理で抑えられる傾向がありました。最も良好だったのは、クエン酸処理を予冷後のMAPで貯蔵した組み合わせです。総フェノール量やフラボノイド量も、処理したキャベツの方がよく保たれる傾向でした。

物質ごとに得意な項目が異なっていた点も報告されています。グルタチオンは、活性酸素を分解する酵素の働きを最も強く高めました。この傾向は特に通常の冷蔵で目立ちました。アスコルビン酸は、硬さの保持、呼吸の抑制、エチレン量の低下で最も良い結果を示しました。α-トコフェロールは、変色や「ペッパースポット」と呼ばれる黒い斑点の発生を抑え、見た目を保つ効果が最も大きいと評価されました。抗酸化処理をしたキャベツでは、活性酸素の指標が低く、細胞膜の傷みも少ない傾向が見られました。

貯蔵方法については、MAP、特に予冷と組み合わせたMAPで、重さの減少、呼吸、エチレン量が低く抑えられる傾向がありました。一方、赤キャベツの色のもとであるアントシアニンは、MAPでの貯蔵の方が通常の冷蔵より少ないという異なる傾向を示しました。研究チームは、酸素が少ない環境が色素の合成や安定性に影響した可能性を挙げています。ただし、その仕組みは今回の実験では確かめていない仮説だとしています。

多くの測定項目の関係を統計的にまとめた分析では、抗酸化処理をしたキャベツと無処理のものが明確に分かれました。抗酸化酵素の働きや食感の保持といった項目と、腐敗やエチレン、活性酸素などの劣化の指標とは、逆向きの関係にありました。著者らは、これらは項目間の関連を示すもので、特定の因果関係や分子レベルの仕組みを証明したものではないと述べています。

この研究が示すこと

この研究は、赤キャベツの貯蔵中の品質保持では、冷蔵や包装といった環境の管理に抗酸化物質の処理を組み合わせることで、多くの品質指標がよりよく保たれたことを報告しています。同時に、どの抗酸化物質がどの品質に効くか、またその効き方は貯蔵環境によって変わること、そして色素のアントシアニンのようにほかの指標とは違う反応を示す成分もあることを示しました。品質を保つ方法を考えるうえで、処理と貯蔵条件の組み合わせを総合的に見ることの重要性を伝える結果といえます。

著者:Amira A. Abo Elmakarem(Postharvest and handling Vegetables Research Dept, Agriculture Research Center, Horticulture Research Institute, Giza, Egypt)、Nada A. Mostafa(Agric. Botany Dep, Fac. Agric, Mansoura University, Mansoura, Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amira A. Abo Elmakarem, Nada A. Mostafa. Antioxidant treatments combined with refrigerated storage, modified atmosphere packaging, and precooling improve postharvest quality of red cabbage. Scientific Reports 2026-10-02. DOI: 10.1038/s41598-026-70321-y. 原著ライセンス:CC BY.