年齢を重ねると、飲み込む力や口の中の感覚が少しずつ変化し、水分補給や栄養摂取が難しくなることがあります。とくに嚥下障害(飲み込み障害)のある高齢者では、水のようにさらさらした液体をそのまま飲むこと自体が誤嚥(気管に入ってしまうこと)のリスクにつながるため、とろみをつけた飲み物が広く使われてきました。しかし、とろみ剤は温度や時間、唾液の影響で粘度が変化しやすく、味や見た目の受け入れにくさも課題として指摘されてきました。リトアニアのカウナス工科大学などの研究グループは、こうした背景から、指でつまんで食べられる『フィンガーフード』の形をとりながら、高い水分含有量とビタミン補給を両立できるハイドロゲル(ゲル状の水分保持構造)ビーズを開発し、その性質を詳しく調べました。

どんな方法でビーズを作ったのか

研究チームは、食品や医薬品分野で安全性の高さから広く使われている多糖類『アルギン酸』を使い、球状のビーズを作る『スフィリフィケーション』という技術を用いました。方法は大きく二つです。ひとつは、アルギン酸を含む溶液を凍らせてから、カルシウムイオンを含む溶液に浸けて表面を固める『直接法(ダイレクトスフィリフィケーション)』。もうひとつは逆に、カルシウムを含む溶液を凍らせてアルギン酸溶液に浸ける『リバーススフィリフィケーション』です。後者では中身が液状のまま残る『液体コア』のビーズができ、前者では中まで固まった『固体コア』のビーズができます。さらに、カルシウムイオンとの接触時間(5分・8分・15分)を変えて、できあがるビーズの硬さや安定性がどう変わるかも比較しました。ビーズには着色と風味づけを兼ねて、さくらんぼとりんごの果汁濃縮物が使われ、ビタミンB9(葉酸)とビタミンB12を閉じ込めて、消化管でゆっくり放出させることを狙いました。

わかったこと――固さ・安定性・飲み込みやすさ

リバーススフィリフィケーションで作った液体コアのビーズは柔らかく、高い水分含有量を保てる一方、圧力を加えたり噛んだりすると中の水分が一気に漏れ出す『ウォーターバースト』が起きやすく、飲み込む力が弱い人には誤嚥の危険があるため不向きと判断されました。これに対し、直接法で作った固体コアのビーズは、硬さが77.46~136.25グラム、粘着性は約11グラム秒と低く、まとまりの良さ(凝集性)も0.3を超えるなど、日本の嚥下食基準(そしゃく・嚥下しやすい食品として凝集性0.2~0.9が目安とされる基準)に沿う数値を示しました。国際基準であるIDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)のフォークを使った圧縮・分離テストでも、直接法のビーズはフォークで潰れても水分が漏れず、バラバラに崩れないことが確認されています。さらに実際の患者1名を対象にした内視鏡下嚥下検査(FEES)では、このビーズが「噛みやすく、飲み込みやすい」と評価され、誤嚥や咽頭への残留は見られませんでした。ただし、これは1名を対象とした予備的な症例研究である点には注意が必要です。

ビタミンの安定性と放出のしかた

6週間の保存試験では、接触時間が短い(5分)ビーズほどビタミンの保持率が高く、ビタミンB9で79.4%、ビタミンB12で97.0%が保持されました。一方、接触時間を長くすると保持率はやや下がり、約60~70%程度になりました。これは接触時間が長いほどビーズの網目構造が密になり、水分やビタミンが漏れ出しやすくなるためと考えられています。また、模擬消化液を使った実験では、胃を模した環境の初期こそビタミンの放出がやや遅れたものの、最終的には胃の段階だけで70~80%程度が放出されてしまい、腸まで届けたい場合には十分な制御ができていないことも示されました。腸を模した環境まで含めると、最終的な放出率は80~90%程度に達しています。研究チームは、ビタミンを閉じ込める効率自体も高くはなく(ビタミンB9で58%、B12で45%程度)、アルギン酸だけでは狙った場所まで届ける『ターゲットデリバリー』の精度に限界があると述べています。

この研究をどう受け止めるか

この研究は、水分補給が難しい嚥下障害の高齢者に向けて、指でつまめる高水分ゲル状食品を作る一つの方法を示したものです。ただし、著者ら自身も述べているように、飲み込みやすさを確認した症例は1名にとどまっており、原因や重症度の異なる嚥下障害を持つより多くの患者での検証が今後必要とされています。またビタミンの腸への到達を狙った制御放出についても、現状のアルギン酸だけの構造では十分ではなく、コーティングを重ねるなどのさらなる工夫が課題として挙げられています。この記事で紹介した数値や結果は、この一つの研究で得られたものであり、健康効果や安全性を保証するものではない点にご留意ください。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Enrika Lazickaitė, Milda Keršienė, Ina Jasutienė, et al. Different Alginate Spherification Methods for Producing Hydrogel Beads Loaded with Vitamins B9 and B12 to Support Hydration in Older Adults with Dysphagia. ジェルズ (2026). DOI: 10.3390/gels12080706. 原著ライセンス: cc-by.