日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
高齢期の心身の衰え「フレイル」には、食事の内容と腸内細菌の状態がそれぞれ関わることがこれまでの研究で示されてきました。しかし、この二つを同時に調べ、食事と腸内細菌がどのように絡み合ってフレイルに関係しているのかを検討した研究は、アジアの集団では十分に行われていませんでした。今回、京都府北部の長寿地域として知られる京丹後市周辺に住む高齢者を対象に、食事パターンと腸内細菌のタイプを組み合わせてフレイルとの関係を調べた研究が、ジャーナル・オブ・ニュートリション・ヘルス・アンド・エイジング誌に2026年8月に掲載予定です。この研究は京都府立医科大学の研究者らが中心となってまとめたもので、著者の所属はいずれも京都府立医科大学や京丹後市立弥栄病院など日本の機関であり、対象者も京丹後地域の住民であることから、日本主導の研究といえます。
京丹後地域は人口約10万人のうち65歳以上が38%を超え、人口10万人あたり200人超という高い百寿者密度を持つ、日本有数の長寿地域として知られています。
どんな方法で調べたのか
研究チームは、京丹後多目的コホート研究に参加した65歳以上の地域在住高齢者785人(年齢の中央値72歳、女性59.7%)を対象としました。食事内容は、過去1か月の食習慣を尋ねる質問票(BDHQ)で調べ、58の食品・飲料項目を27の食品グループにまとめた上で解析しています。腸内細菌については、便サンプルを用いた16S rRNA遺伝子解析により、47種類の属レベルの細菌グループの構成を調べました。
この二つのデータそれぞれに主成分分析とクラスター分析という統計手法を適用し、食事パターンを4つ(パターン1「野菜・大豆・乳製品」、パターン2「米と飲酒」、パターン3「魚介と和食」、パターン4「パンと甘味類」)、腸内細菌のタイプを4つ(Ruminococcus−Faecalibacteriumクラスター、Prevotella−Christensenellaceaeクラスター、Bacteroides中間型クラスター、Lachnoclostridium−R. gnavusクラスター)に分類しました。フレイルの評価には、32項目の健康上の問題(症状、検査値の異常、身体機能など)の蓄積割合を指数化する「フレイル指数」を用い、この指数が0.21以上をフレイルと判定しています。全体でのフレイル該当者は119人(15.2%)でした。
食事と腸内細菌を組み合わせるとフレイルの差が広がった
食事パターン単独で見ると、フレイルの割合はパターン1(野菜・大豆・乳製品)の7.9%からパターン3(魚介と和食)の17.9%までの幅がありました。腸内細菌タイプ単独では、Ruminococcus−Faecalibacteriumクラスターの9.9%からLachnoclostridium−R. gnavusクラスターの23.9%までの幅でした。年齢・性別・BMI・総エネルギー摂取量で調整した解析でも、パターン1を基準とすると他の3つの食事パターンはいずれもフレイルのオッズ比が約3倍高く、腸内細菌でもLachnoclostridium−R. gnavusクラスターはRuminococcus−Faecalibacteriumクラスターに比べてオッズ比が3.00と高くなっていました。
注目すべきは、食事パターンと腸内細菌タイプを掛け合わせた16通りの組み合わせで見たときに、フレイルの割合が4.0%(パターン1×Ruminococcus−Faecalibacteriumクラスター)から36.4%(パターン3×Lachnoclostridium−R. gnavusクラスター)まで、9倍以上の開きが見られた点です。食事だけ、あるいは腸内細菌だけを見るよりも、両者を組み合わせた方がフレイルのリスクの違いがくっきりと現れたことになります。全体を通して、Lachnoclostridium−R. gnavusクラスターはどの食事パターンと組み合わさってもフレイルリスクを高める方向に働き、逆にRuminococcus−Faecalibacteriumクラスターはリスクを抑える方向に働く傾向が見られたと報告されています。
食物繊維と腸内細菌、フレイルをつなぐ経路
研究チームはさらに、食物繊維の摂取量とフレイル指数の関係に、腸内細菌が統計的にどの程度関わっているかを検証しました。総食物繊維の摂取量はフレイル指数と逆相関しており(摂取量が多いほどフレイル指数が低い傾向)、この関係の一部は、Faecalibacterium、Fusicatenibacter、Eubacterium eligensグループといった酪酸産生菌が中心となる腸内細菌の指標(Microbe PC2)を介して説明できることが示されました。この経路が説明する割合は11.4%と推定され、5000回のブートストラップ法による統計的検証でも支持されています。ただし、直接効果(腸内細菌を介さない経路)も統計的に有意なまま残っており、著者らは食物繊維とフレイルの関係の大部分は腸内細菌以外の経路によるものだと考察しています。
また、最も低フレイルだったパターン1(野菜・大豆・乳製品)は食物繊維だけが際立って多いわけではなく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、植物性たんぱく質が多く、ナトリウム/カリウム比が低いという特徴を持つことも本文中で示されています。一方、和食・魚介中心のパターン3は、ナトリウム摂取量や食塩相当量が4パターン中で最も高く、ナトリウム/カリウム比も高い値でした。著者らは、塩分の多い食事が腸内のLactobacillusを減少させ炎症性の免疫反応を強める可能性を示した動物実験や小規模なヒトの研究を踏まえ、和食であっても塩分の多い調理法(塩蔵・漬物・煮物など)がその健康効果を弱めている可能性を考察として述べています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は横断研究であり、ある一時点でのデータをもとにした関連を見たものです。そのため、食事や腸内細菌の状態が「原因」でフレイルという「結果」が生じたと直接的に証明するものではありません。著者ら自身も、フレイル指数と腸内細菌を介した経路の説明割合が11%程度と小さいこと、16分類の一部のグループは9人程度と少人数だったこと、事前に定めた多数の比較を行った際に統計的な多重比較の補正を行っていないことなどを限界として挙げています。また、腸内細菌の代替指標として6種類の酪酸産生菌の複合スコアを用いた感度分析では、統計的に一貫した有意差は得られなかったとも報告されています。
今回の結果は、食事だけでも腸内細菌だけでもなく、両者を組み合わせて見ることでフレイルリスクをより細かく捉えられる可能性を示すものですが、あくまで一つの研究であり、この結果だけでフレイル予防の具体的な食事法が確立したわけではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yuji Naito, Takeshi Yasuda, Hiroaki Kitae, et al. Dietary patterns and gut microbial clusters jointly stratify frailty in community-dwelling older Japanese adults: a cross-sectional study in the Kyotango longevity area. ジャーナル・オブ・ニュートリション・ヘルス・アンド・エイジング (2026). DOI: 10.1016/j.jnha.2026.100946. 原著ライセンス: cc-by.