サラセミア(地中海貧血)は赤血球の異常により慢性的な貧血を伴う遺伝性の血液疾患で、患者では栄養状態の悪化がしばしば問題になります。しかし低栄養かどうかを見分ける際、血液中のアルブミンやトランスフェリンといった従来の指標だけでは十分に捉えきれない可能性があります。今回、タイのチェンマイ大学医学部の研究チームが、血液中の代謝物(メタボローム)を詳しく調べることで、サラセミア患者の低栄養状態をより鋭敏に識別できるかを検証し、栄養介入の効果を比較したランダム化比較試験の結果を報告しました。

健康な人・低栄養でない患者・低栄養の患者を比較

研究では、サラセミアではない健康な人20名、低栄養のないサラセミア患者20名、低栄養のあるサラセミア患者20名の合計60名が対象となりました。身体計測(体格の指標)に加え、血清アルブミンと血清トランスフェリンという従来の栄養指標、そして血漿中の主要栄養素(マクロ栄養素)に関連する代謝物のプロファイルが測定されました。

その結果、低栄養のあるサラセミア患者では、アミノ酸の一種であるチロシンとトリプトファン、そして脂肪酸に由来するアシルカルニチン類の濃度が、他の群より高いことがわかりました。一方で、従来から使われてきた血清アルブミンや血清トランスフェリンの値には、グループ間で明確な差が見られませんでした。この結果は、既存の血液検査だけでは拾いきれない栄養状態の変化を、代謝物の測定であればより敏感に検出できる可能性を示すものといえます。

栄養補助食品と栄養指導、12週間でどう変わったか

低栄養のあるサラセミア患者20名は、経口栄養補助食品(ONS)を摂取する群と、栄養に関する指導(NA)を受ける群にランダムに割り付けられ、12週間の介入が行われました。介入後に代謝物や各種指標を再評価したところ、脂肪酸由来のアシルカルニチン類は、ONS群ではほぼすべての種類で減少した一方、NA群ではほぼすべての種類で増加するという、対照的な変化が見られました。介入前から12週間後までの変化率をふたつの群で比較しても、脂肪酸由来アシルカルニチン類の大半でグループ間に差が認められました。ただし、身体計測値、血清アルブミン、血清トランスフェリンの変化率については、両群の間に統計的に意味のある差は見られなかったとされています。

これらの結果から、研究チームは血漿中のアミノ酸やアシルカルニチンの濃度が栄養状態によって異なり、12週間の栄養補助食品摂取によって変化することを示唆しています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

著者らはこの研究について、探索的な性質のものであり、仮説を生み出す段階の知見であると位置づけています。実際に診断のツールとして使えるかどうかを確認するには、正式な診断性能の解析による検証が必要だとも述べられています。つまり、代謝物の測定が低栄養の診断や治療効果の判定に実際に役立つかどうかは、今後さらなる研究で確かめる必要がある段階です。今回の対象者数もそれぞれ20名ずつと限られており、この一つの研究结果だけでサラセミア患者の栄養管理の方針が確定したわけではない点に留意が必要です。

まとめ

この研究では、血液中の代謝物を詳しく調べることで、サラセミア患者の低栄養状態を、従来のアルブミンやトランスフェリンといった指標よりも鋭敏に捉えられる可能性が示されました。また、経口栄養補助食品と栄養指導という二つのアプローチでは、脂肪酸由来のアシルカルニチン類の変化のしかたに違いが見られたと報告されています。今後、こうした代謝物の測定が実際の診療でどのように役立てられるのか、さらなる検証が期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Chanisa Thonusin, Rattana Weerasathain, Pokpong Piriyakhuntorn, et al. Blood metabolomes distinguish malnutrition and reflect treatment response in adult thalassemia patients: a randomized controlled trial. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-68295-y.