著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Plant Physiology and Biochemistry
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スーパーで見かけるサツマイモには、赤みがかった皮のものや黄色っぽい皮のものがあります。同じ品種であっても皮の色が違う個体が生まれることがあり、この色の違いは消費者の好みや品種を見分ける手がかりとして、生産の現場でも重要視されています。しかし、皮の色がどのような仕組みで赤から黄色へと変化するのかは、これまで十分に解明されていませんでした。中国・雲南省の研究機関に所属する研究者らのグループは、この皮色の違いを生み出す分子レベルの仕組みを調べるため、遺伝子の働き方(トランスクリプトーム)と体内の化学物質(メタボローム)の両面から解析を行いました。
赤い皮と黄色い皮、何が違うのか
研究では「普薯32号」という品種のうち、赤い皮とオレンジ色の果肉を持つ系統(PsR)と、そこから自然に生じた変異体で黄色い皮とオレンジ色の果肉を持つ系統(PsW)が比較材料として用いられました。両者の皮を分析した結果、308種類の代謝物(体内の化学物質)と1631個の遺伝子の働き方に違いが見つかり、これらは主にアントシアニン(赤や紫の色素)とフラボノイド(植物に広く含まれる化合物群)が作られる代謝経路に集中していることが確認されました。
具体的には、赤い色素の一種であるシアニジン3-O-ガラクトシドという物質はPsRで多く蓄積していたのに対し、黄色い化合物の一種であるアストラガリンはPsWで多く蓄積していました。つまり、赤い色素が減り黄色い化合物が増えることが、皮の色が赤から黄色へ変わる主な化学的背景として示されました。
色を作る遺伝子のスイッチの違い
さらに遺伝子の発現量を詳しく調べるqRT-PCRという手法を用いた分析では、アントシアニンなどの色素を合成する一連の遺伝子(4CL、CHS、CHI、F3H、F3'H、DFR、ANS、GSTと呼ばれる遺伝子群)が、赤い皮のPsRでより高く発現していることがわかりました。一方、黄色い皮のPsWでは、FLSとHCTという遺伝子の発現が顕著に高くなっていました。これらの遺伝子は、色素のもとになる中間物質を、クロロゲン酸類やケルセチン、ケンフェロールといった別の物質を作る経路へと振り向ける働きを持つとされ、実際にPsWの皮ではクロロゲン酸類・ケルセチン・ケンフェロールの含有量が有意に高いことも確認されました。つまり、同じ材料から出発しながら、どの遺伝子がより強く働くかによって、赤い色素の方向へ進むか、黄色系の物質の方向へ進むかが分かれると考えられます。
加えて、g17105とg2322と名付けられた2つのMYB転写因子(他の遺伝子の働きを調節するタンパク質)が、サツマイモの皮でアントシアニンが作られる過程に関わる候補として挙げられました。
この研究の位置づけ
この研究は、特定の品種とその自然変異体という限られた材料を用いた比較に基づくものであり、遺伝子の発現パターンや代謝物の蓄積量の違いを示した段階の知見です。皮の色づきに関わる仕組みの全体像や、他の品種・栽培条件への当てはまりについては、今後さらなる研究が必要とされています。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
今回の研究では、赤い皮のサツマイモと黄色い皮の変異体を比較することで、色の違いがアントシアニンとフラボノイドの合成バランスの変化によって生じている可能性が示されました。特定の遺伝子群の発現の強弱が、赤色色素と黄色化合物のどちらが優勢になるかを左右していると考えられ、著者らはこれらの成果が今後の機能ゲノム研究の基盤になるとしています。
著者:Jinhua Zhou(Industrial Crop Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming, Yunnan, 650205, China)、Kaifeng Li(Sericulture and Apiculture Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Mengzi, Yunnan, 661101, China)、Lei Zhang(Industrial Crop Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming, Yunnan, 650205, China)、Maoxing Li(School of Life Sciences, Yunnan Key Laboratory of Potato Biology, Engineering Research Center for Valorization of Unique Bio-Resources in Yunnan, Ministry of Education, Yunnan Normal University, Kunming, Yunnan, 650500, China)、Ying Wang(Industrial Crop Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming, Yunnan, 650205, China)、Lili Lu(Industrial Crop Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming, Yunnan, 650205, China)、Wanlin Yang(Industrial Crop Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming, Yunnan, 650205, China. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jinhua Zhou, Kaifeng Li, Lei Zhang, et al. Integrative transcriptomic and metabolomic analysis reveals molecular mechanisms in skin color variation in sweetpotato. プラント・フィジオロジー・アンド・バイオケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.plaphy.2026.111592. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.