糖尿病の管理というと、食事の「質」に注目が集まりがちです。しかし、そもそも十分な食料を安定的に入手できるかどうか、つまり「食料不安」の有無も、血糖コントロールに影響する可能性が指摘されています。今回紹介する研究は、2型糖尿病の成人を対象に、食料不安と地中海食(Mediterranean Diet)への順守度の組み合わせが血糖コントロールとどう関連するか、また腸内細菌が作り出す代謝物が食料不安や大血管合併症(心筋梗塞や脳卒中などにつながる血管の合併症)の有無によって異なるかを調べた横断研究です。
研究でわかったこと
この研究では、食料不安を「Food Insecurity Experience Scale」という指標で、地中海食への順守度を14項目からなる評価尺度(MDA Scale)で評価しました。さらに、血液中の代謝物であるトリメチルアミンN-オキシド(TMAO)とL-カルニチンの濃度をELISA法で測定しています。TMAOやL-カルニチンは、腸内細菌が特定の栄養素を分解する過程で生じる物質として知られています。
血糖コントロールの指標であるHbA1c値を3段階(三分位)に分けて解析したところ、食料不安と地中海食順守度を組み合わせたパターンは、多変量調整後には統計的に有意な関連を示しませんでした。ただし、点推定値としては、食料不安があり地中海食の順守度が高い群でHbA1cが中間区分になるオッズが高い傾向(調整オッズ比3.41、95%信頼区間0.76〜15.25)、食料不安があり地中海食の順守度が低い群で最も高いHbA1c区分になるオッズが高い傾向(調整オッズ比4.74、95%信頼区間0.66〜34.16)が見られました。ただし、いずれも信頼区間が非常に広く、推定値の精度は低いとされています。二値ロジスティック回帰を用いた感度分析ではより強い関連が示されましたが、これについても慎重な解釈が必要とされています。
一方で、代謝物に関してはより明確な違いが見られました。大血管合併症のある参加者では、血清中のTMAOとL-カルニチンの濃度が有意に高いことが示されました(それぞれp = 0.026、p = 0.039)。逆に、食料不安のある参加者では、両方の代謝物濃度が有意に低いことが示されました(それぞれp = 0.009、p = 0.018)。また、食物繊維や植物性タンパク質の摂取量が多いほどTMAO濃度は低い傾向が、L-カルニチン濃度は食物繊維摂取量と正の関連、植物性タンパク質摂取量とは逆の関連が、それぞれ横断的に示されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は横断研究であり、ある一時点でのデータをもとにした関連を調べたものです。そのため、食料不安や食事パターン、代謝物の濃度と血糖コントロールや合併症との間に、原因と結果の関係があるかどうかを示すものではありません。著者ら自身も、これらの結果は探索的な横断的関連として解釈すべきであり、因果関係やメカニズムを示す証拠ではないと述べています。食料不安と地中海食の組み合わせパターンについては、示唆的ではあるものの精度の低い結果にとどまっており、より大規模な前向き研究での確認が必要とされています。
まとめ
今回の研究では、2型糖尿病の成人において、食料不安と地中海食順守度の組み合わせと血糖コントロールとの間に明確な関連は認められませんでしたが、示唆的な傾向は見られました。一方、腸内由来代謝物であるTMAOとL-カルニチンの濃度は、大血管合併症のある人で高く、食料不安のある人で低いことが示され、食事内容とも関連が見られました。これらはあくまで一つの横断研究から得られた知見であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:2型糖尿病成人における食料不安、地中海食順守、腸内由来代謝物と血糖コントロールおよび大血管合併症との関連に関する横断研究(ニュートリエンツ・2026年08月)