著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:LANGUAGE Jurnal Inovasi Pendidikan Bahasa dan Sastra
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
メニュー名を言葉の研究対象として読む
カフェのメニューに並ぶ料理名や飲み物名は、何が出てくるかを知らせるだけの札ではなく、店のイメージや客の気分にまで働きかける言葉になりつつある、と研究チームは指摘しています。著者らが注目したのは、インドネシア・南スラウェシ州ボネ県の中心都市ワタンポネです。この町では近年モダンなカフェが増えており、地元のブギス語、インドネシア語、英語などの外国語を組み合わせたメニュー名が見られるといいます。
研究の目的は、こうしたメニュー名がもつ意味を二つの層に分けて捉えることでした。一つは「デノテーション(明示的な意味)」で、辞書的・字義どおりに材料や作り方を指す意味です。もう一つは「コノテーション(含みの意味)」で、字義どおりの意味の上に重なり、感情や連想、文化的な価値観を呼び起こす意味です。この二層の考え方はフランスの思想家ロラン・バルトの記号論に基づくもので、著者らは、これまでの意味の研究が文学作品やニュース、広告に偏り、外国語と地域語が混ざったカフェメニューを扱ったものは限られていたと述べています。
5軒のカフェから158のメニュー名を収集
研究チームは、少なくとも2年以上営業を続け、常設の書かれたメニューを持ち、地域語・国語・外国語を組み合わせた名前を使っているという基準で、ワタンポネ市内の5軒のカフェを選びました。紙のメニューやレジ横の掲示、公式のデジタルカタログに載っているメニュー名158件を分析対象とし、2026年1月から5月までの5か月間にわたって調査しました。
メニュー名の記録・分類に加え、店の経営者5人とバリスタ5人の計10人に聞き取りを行い、名前に込めた意図を確認しました。これは、研究者だけの主観的な解釈に偏らないようにするための手順だと説明されています。分類にあたっては、書かれたメニューと聞き取り内容の突き合わせ、標準的な辞書の参照、言語学の研究者との議論も行われました。
8割超は「中身そのまま」の名前、残りに6種類の含み
論文によると、158件のメニュー名はすべて字義どおりの意味を備えていました。そのうち132件(全体の83.5%)は、材料や作り方を素直に示すだけの名前でした。例として、ヤシ糖を加えたコーヒーを指す「Kopi Aren(コピ・アレン)」、抹茶と牛乳の「Matcha Latte」、角度60度の円すい形ドリッパーで淹れる「V60」などが挙げられています。著者らは、こうした名前が多いのは、客が迷わず中身を把握して注文できることを店側が重視しているためだと解釈しています。
残る26件(16.5%)は、字義どおりの意味を保ちつつ、含みの意味も重ねた名前でした。研究チームはこれを六つの方向に分類しています。くつろぎや楽しさを感じさせる「感情」型(4件、例:Kopi Senyaman)、昔の記憶やブギスの伝統を呼び起こす「懐かしさ・地域の知恵」型(5件、例:Kopi Tua、Onde-Onde Latte)、欧米由来の素材名で洗練された印象を与える「高級感・グローバル」型(6件、例:Ice Butterscotch Sea Salt Latte)、雲のような口当たりなどを思わせる「見た目・食感」型(3件、例:Matcha Cloud)、店独自の味を打ち出す「ブランドの主張」型(5件、例:Cocovela Signature)、そして庶民的な軽食の格を引き上げる「伝統食の格上げ」型(3件、例:Pisang Goreng Legend)です。最も多かったのは高級感・グローバル型でした。
聞き取りからは、名前の背景も具体的に示されています。ある店の経営者によれば、「Kopi Senyaman」は家庭的な店内の雰囲気に合わせ、心の落ち着きを連想させるように選んだ名前だといいます。また「Kopi Tua」の「Tua(古い)」はコーヒーの木の樹齢ではなく、地域の年長者になじみ深い昔ながらの淹れ方を指しているとされます。地元の伝統菓子オンデオンデとイタリア語由来のラテを組み合わせた「Onde-Onde Latte」について、著者らは、地域の親しみやすさを都会的な装いで包んだ例であり、外国語の導入が地域の食文化を押しのけるのではなく新たな形で生かしていることを示すと論じています。
メニュー名に映る土地の文化
著者らは、ワタンポネのカフェのメニュー名が、中身を正確に伝える情報としての役割と、客の気持ちや印象に訴える役割を併せ持っていると結論づけています。そして、その含みの意味は思いつきで付けられたものではなく、地域社会で共有された文化的な約束事に支えられていると述べています。
なお、本研究が分析したのは1地域の5店舗の文字情報に限られ、客が実際にどう受け止めたかを数量的に測ったものではないことを、著者ら自身が限界として挙げています。そのうえで研究は、日常的なメニューの一行にも、近代化に応じつつ伝統とのつながりを保とうとする地域の言葉の姿が表れていることを示しています。
原著論文の著者・所属:Indar Ramadhan(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)、Suhardiman Suhardiman(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)、Muhammad Idris(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Indar Ramadhan, Suhardiman Suhardiman, Muhammad Idris ANALISIS MAKNA DENOTASI DAN KONOTASI PADA DAFTAR MENU KAFE DI WATAMPONE. LANGUAGE Jurnal Inovasi Pendidikan Bahasa dan Sastra 2026-11-03. DOI: 10.51878/language.v6i4.16434. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。