著者の所属・活動拠点の国は、カザフスタンです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

牛乳は良質なたんぱく質やミネラルを含む身近な食品です。その一方で、汚れた土壌、飼料、飲み水などを通じて有害な物質が混入することがあります。研究チームが特に注目したのは、毒性があり環境中に長く残る重金属の鉛とカドミウム、そして人間の活動に由来する放射性物質のセシウム137とストロンチウム90です。論文は背景として、旧セミパラチンスク核実験場の周辺地域で残留汚染が食品安全上の課題になっていることを挙げています。

牛乳は、カゼインというたんぱく質の粒子、脂肪球、乳糖、ミネラルなどが複雑に混ざった液体です。そのため、水を対象にした浄化の知見をそのまま当てはめることはできません。これまでの吸着研究の多くは水や単純な模擬溶液を使っており、天然鉱物や炭素系の吸着材を順番に組み合わせて牛乳を直接ろ過する方法は、十分に調べられていませんでした。そこで著者らは、複数の吸着材を直列につないだろ過装置で汚染物質をどこまで減らせるかを調べました。あわせて、牛乳の成分や性質がどう変わるかも評価しています。

何をどのように調べたか

実験には「吸着ろ過」と呼ばれる方法を使いました。これは、表面や内部の細かな孔に物質を取り込む性質をもつ粒状の材料(吸着材)の層に液体を通し、不要な成分を捕らえる方法です。吸着材は3種類で、炭素を含む天然鉱物系のタウライト(シュンガイト)、イオンを交換する性質をもつ多孔質の鉱物である天然ゼオライト、ヤシ殻から作った活性炭を用いました。それぞれを別々の筒(カラム)に詰め、単独で使う場合、2種類を順番に通す場合、3種類すべてを通す場合の計7通りの構成を比べています。吸着材の量は、1本のカラムあたり100立方センチと150立方センチの2条件を試しました。

重金属の実験では、生乳に鉛とカドミウムを意図的に加えた牛乳を使いました。150立方センチの条件では、ろ過前の濃度は鉛が1キログラムあたり0.34ミリグラム、カドミウムが0.31ミリグラムでした。放射性物質の実験では人工的な添加はしていません。もともとセシウム137とストロンチウム90が測定できる量含まれていた2地域の牛乳を、それぞれ別々に処理しました。放射能の量は、1秒間に起こる放射性崩壊の回数を表す単位ベクレルを用い、牛乳1キログラムあたりで示されています。

牛乳の品質は、汚染物質の実験とは別の牛乳を使って評価しました。脂肪、たんぱく質、乳糖、固形分、密度、pH、粘度(とろみ)、ナトリウム・カリウム・カルシウムの量を、ろ過の前後で比べています。つまり、汚染物質の低減と品質の保持は、同じ試料で同時に確かめたものではありません。それぞれ別の評価として読む必要があることを、著者ら自身が明記しています。

主な結果

重金属については、1カラムあたり150立方センチの条件で、タウライトの後に活性炭を通す構成が鉛を約90.6%、カドミウムを約91.9%減らしました。ろ過後の濃度は、鉛が1キログラムあたり0.032ミリグラム、カドミウムが0.025ミリグラムでした。

放射性物質については、150立方センチで実施した試験系列で、ゼオライトの後に活性炭を通す構成がセシウム137を75.73%、ストロンチウム90を73.97%減らしたと報告されています。ろ過後の放射能は、セシウム137が1キログラムあたり0.2534ベクレル、ストロンチウム90が0.1123ベクレルでした。また、3種類の吸着材すべてを順に通す三段構成では、セシウム137が約79.9%、ストロンチウム90が約77.7%減ったと報告されています。ただし、2つの試験系列では牛乳の産地とはじめの放射能の量、吸着材の量が同時に異なっていました。そのため著者らは、系列どうしを比べて吸着材の量の効果を判断することはせず、それぞれの系列の中で結果を解釈しています。

品質の評価では、タウライトの後に活性炭を通す構成で、基本的な成分組成と粘度の変化が小さくとどまりました。一方、ゼオライトを含む構成では、ナトリウムとカリウムがより大きく減少しました。

この研究が示すこと

この研究は、実験室規模の装置で、複数の吸着材を順番に通すろ過によって牛乳中の重金属と放射性物質をかなり減らせたことを報告しています。著者らは、汚染物質の種類に応じて吸着材の構成を選ぶ考え方を支持する結果だとしています。そのうえで、別々に評価した除去性能と品質の両面から見て、タウライトの後に活性炭を通す構成のバランスが良好だったと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Aray Bazanova(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)、Aitbek Kakimov(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)、Marzhan Tashybayeva(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)、Alibek Muratbayev(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)、Nazerke Muratzhankyzy(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)、Nadir Ibragimov(Research School of Food Engineering, Shakarim University, 20A Glinki Street, Semey 071412, Kazakhstan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aray Bazanova, Aitbek Kakimov, Marzhan Tashybayeva, et al. Multistage Adsorption–Filtration of Cow’s Milk for Heavy Metal and Radionuclide Removal with Preservation of Milk Quality. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193413. 原著ライセンス:CC BY.