日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
幼い頃に身についた歯みがきの習慣や食べ物の好み、食事のとり方は、その後の人生を通じて影響が続くと報告されています。近年の子どもの食をめぐる課題として、栄養の偏りや朝食の欠食が指摘され、小学校から中学校へ進む時期に朝食の頻度や果物・野菜の摂取が減ることも知られています。著者らは、望ましい食習慣を早い段階で身につけることの重要性を背景として挙げています。
あわせて日本では、子どもの口の機能の発達の遅れが公衆衛生上の課題とされ、2018年には小児の口腔機能発達不全症が公的な歯科医療保険の対象疾患に加えられました。口の機能が十分に育たないと食べることに困難が生じ、栄養の偏りにつながる可能性があるため、著者らは食育を設計する際に口の健康やかむことへの意識を高める取り組みと組み合わせることが欠かせないと述べています。さらに、保護者の口腔保健行動や栄養に関する知識が子どもの行動や状態に影響するという先行研究をふまえ、子どもと保護者の双方を対象とする必要があるとしています。
この研究で用いられたCAMCAMプログラムは、もともと地域で暮らす高齢者のフレイル(心身の衰え)予防のために開発されたものです。口の健康と栄養に関する学習と、かむことを意識した特製の食事を組み合わせ、意識と行動の変化を促す内容で、高齢者では6か月の実施により口や体の状態の改善につながったと報告されています。今回、著者らはこのプログラムを子どもと保護者向けに作り変え、口の健康・栄養・かむことに関する意識や行動に変化が生じるかを検討しました。
何をどのように調べたか
調査は2023年4月から2024年12月にかけて行われました。東京都内の2か所の子ども食堂から、日頃から利用している84人(子ども52人、保護者32人)が参加しています。対照群を置かず、実施前と実施後を比べる試行的な設計で、プログラムが実施可能かどうかと、予備的な変化をみることが主な狙いでした。研究チームとの協力関係があり利用者層が安定している施設が選ばれています。
プログラムは6か月間で、月に1回、歯科医師・歯科衛生士・管理栄養士による約10分の学習の時間が設けられ、計6回実施されました。参加者にはかむことを促すよう設計された弁当が提供されました。この弁当は、かみごたえのある食材を使う、食材を大きめに切る、加熱時間を短くする、水分を減らすという工夫により、かむ回数が増えるよう作られています。加えて、スマートフォンのアプリで週に1回、口の健康・栄養・かむことに関する200字程度の短い情報が配信され、講義の録画も視聴できるようにされました。
評価には、この研究のために作られた子ども向けのチェックリストが用いられ、歯みがきやフッ化物の使用、食事の習慣、かむことに関する行動が尋ねられました。意識と行動の変化は、行動変容の段階を5つ(関心がない段階から、実行・維持の段階まで)に分けてとらえる考え方に沿って評価されています。子どもについては口の機能の検査も行われ、口の中の汚れや歯ぐきの状態、舌や唇を素早く動かす能力、かむ力、唇の力、舌の力などが測定されました。
主な報告結果
口の健康に関しては、子どもが自分の口の中を観察する頻度が有意に増えたと報告されています。フッ化物を毎日使うと答えた子どもは32人(61.5%)から40人(76.9%)に増え、保護者ではフッ化物をほとんど使わないと答えた人が16人(50.0%)から6人(18.8%)に減りました。一方、歯みがきの回数や定期的な歯科受診の頻度には有意な変化はみられませんでした。著者らは、参加者の多くが実施前からすでに望ましい習慣をもっていたため、さらなる変化がとらえにくかった可能性を指摘しています。
栄養に関しては、栄養バランスを考えていないと答えた子どもが33人(63.5%)から20人(38.4%)に減りました。食べる頻度では、子どもで米・いも類・果物が、保護者で肉・卵・いも類が有意に増えたと報告されています。かみごたえのある食品を食べる頻度は子ども・保護者ともに増える傾向がみられましたが、有意な差には至りませんでした。行動変容の段階でみると、栄養バランスについて実行・維持の段階にある子どもは9人(17.3%)から18人(34.6%)へ、保護者は18人(56.2%)から24人(75.0%)へ増えています。
口の機能の検査では、学年によって異なる特徴が報告されました。低学年では、舌や唇を素早く動かす能力の一部、かむ能力の指標、舌の力に有意な改善がみられました。高学年では、歯と歯の間の歯ぐきの炎症が有意に改善しています。なお、口腔機能発達不全症に該当すると判定された割合は、低学年で23.3%から36.7%へ増え、高学年では40.9%から13.6%へ減りました(有意差なし)。低学年での増加は、唇がうまく閉じられないと質問票で答えた子どもが6人(20.0%)から14人(46.7%)に増えたことによるもので、著者らは、客観的な測定値では良好な変化がみられていることから、プログラムへの参加によって自分の口の癖や症状への気づきが高まり、実施後により正確に申告されるようになった可能性を挙げています。
この研究が示すこと
著者らは、この研究が対照群を置かない単一群の前後比較による試行研究であり、因果関係を結論づけることはできず、観察された変化には通常の成長や発達の影響も含まれうると述べています。参加人数が比較的少ないこと、参加者の年齢や発達段階の幅が広いことも限界として挙げられています。
そのうえで著者らは、口の健康に関する教育を食育に統合したこのプログラムが、子どもと保護者の双方で、口腔保健行動の改善や栄養バランスへの意識の高まりを促しうることを示す予備的な結果が得られたとしています。口の健康、栄養、かむことを別々にではなく一つの取り組みとしてまとめ、子どもと保護者に同じ内容を届けた点が、この研究の特徴として位置づけられています。
著者:Rena Hidaka(Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo)、Akiko Kojo(Japan Women’s University)、Yuji Masuda(Institute for Oral Science, Matsumoto Dental University)、Shintaro Hata(Apple Dental)、Misaki Tanaka(Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo)、Tona Watanabe(Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo)、Koichiro Matsuo(Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rena Hidaka, Akiko Kojo, Yuji Masuda, et al. Development and implementation of an integrated oral health and nutrition education program using community children’s cafeterias: A pilot study. PLoS ONE 2026-09-03. DOI: 10.1371/journal.pone.0357410. 原著ライセンス:CC BY.