この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Endocrinology Diabetes & Metabolism

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

糖尿病になる一歩手前の状態を「前糖尿病」と呼びます。血糖値が正常より高いものの、糖尿病と診断される基準には届かない段階です。研究チームによれば、この状態から毎年5〜10%の人が2型糖尿病へ進むとされる一方、生活習慣への介入によって糖尿病の発症を大きく減らせる可能性も報告されてきました。運動はその中心的な手段と位置づけられています。

もう一つ、この研究が注目したのがビタミンDです。ビタミンDは血糖の調節にも関わると考えられており、血液中の濃度が低い人ほど2型糖尿病のリスクが高いという関連が疫学研究で繰り返し示されてきました。ただし、運動の種類の違いがビタミンDの値にどう影響するかは、中高年の前糖尿病の人々においては十分に調べられていないと著者らは述べています。

そこで研究チームは、中国の伝統的な運動と、器具を使った運動という性格の異なる2つのプログラムを取り上げ、血糖のコントロールと血中ビタミンD濃度にそれぞれどのような変化が起きるかを比較しました。なお本研究は2つのプログラムを別々に評価したもので、両者を組み合わせた形は検証していません。

どのように調べたか

中国・江蘇省無錫市の病院の健康管理センターで、2024年7月から12月にかけて12週間の無作為化比較試験が行われました。参加したのは45歳以上で前糖尿病と判定された地域在住の62名です。参加者はくじ引きのように無作為に3つのグループへ振り分けられました。伝統的中国式運動(TCE)の群が20名、器具運動(KEE)の群が21名、対照群が21名です。

TCE群が行ったのは「八段錦(ばつだんきん)」という気功の一種で、8つの決まった動作をゆるやかなストレッチ、呼吸の調整、意識の集中と組み合わせて行います。指導者の監督のもと、週3回45分のセッションが設けられました。KEE群は高齢者向けに設計されたトレーニング機器を用い、レッグプレスや胸を押す運動、ローイング、エアロバイクなどを組み合わせたサーキット形式の運動を、同じく週3回行いました。対照群には一般的な生活習慣の助言が伝えられましたが、これは教育的な内容にとどまり、監督付きの運動プログラムは実施されていません。3群とも、普段の食事はそのまま維持するよう指示されました。

効果の判定には、空腹時血糖、ブドウ糖負荷試験2時間後の血糖値、過去数か月の血糖状態を反映するHbA1c、そして血中の25水酸化ビタミンD3濃度が用いられました。開始時と12週後に採血が行われ、測定を担当する検査担当者と評価者にはどの参加者がどの群かを知らせない形がとられています。運動セッションはすべて屋内の健康管理センターで実施されました。62名全員が12週間の介入を完了しています。

報告された主な結果

論文によれば、参加開始時点で全員がビタミンD不足の状態にあり、平均濃度は21.53 nmol/Lでした。十分とされる目安の50 nmol/Lを大きく下回る水準です。参加者の約89%は女性で、平均年齢は55.2歳でした。

血糖については、2つの運動群がいずれも対照群と比べて有意な改善を示したと報告されています。空腹時血糖の平均は、TCE群で6.4から5.8 mmol/Lへ、KEE群で6.6から5.6 mmol/Lへ変化した一方、対照群は6.5から6.4 mmol/Lとほぼ横ばいでした。HbA1cはTCE群で6.0%から5.6%へ、KEE群で6.2%から5.4%へ変化し、対照群は6.1%から6.0%でした。

ビタミンDについても、両運動群で上昇が報告されています。血中の25水酸化ビタミンD3の平均は、TCE群で22.1から35.5 nmol/Lへ、KEE群で21.0から38.2 nmol/Lへ上がったのに対し、対照群は21.2から22.0 nmol/Lとほとんど変わりませんでした。ただし著者らは、12週後の平均値は両運動群とも50 nmol/Lの目安には届いていないと明記しています。

2つの運動法を直接比べた場合、KEE群のほうが数値の上では大きな変化を示したものの、統計的に有意な差は確認されませんでした。著者らは、この直接比較は参加人数が計画より少なかったために検出力が不足しており、KEEがTCEより優れていることを示す証拠とは言えないと注意を促しています。また、ビタミンDの変化と血糖の変化の関係を探索的に調べたところ、負荷試験2時間後の血糖値とは逆向きの関連が見られたものの、空腹時血糖やHbA1cとは関連が認められませんでした。この点について著者らは、ビタミンDが血糖改善を仲介していることを示すものではないと述べています。重い有害事象は報告されていません。

この研究が示すこと

この試験は、性格の異なる2つの運動プログラムのいずれもが、通常のケアと比べて12週間で血糖の指標を改善し、血中ビタミンD濃度を高めたことを報告しました。八段錦のような伝統的な運動は身体への負担が少なく文化的に親しみやすい選択肢であり、器具を使う運動は有酸素と筋力トレーニングを標準化された形で組み合わせられる——著者らは、どちらも前糖尿病の管理における現実的な手段になりうると位置づけています。

同時に、慎重な読み方も求められています。運動によってビタミンDは上昇したものの、平均値は十分とされる水準に届きませんでした。著者らは、運動だけでビタミンDを最適な状態にするには不十分な可能性があり、ビタミンD不足に対する既存の評価や治療に取って代わるものではないとしています。参加者の大半が女性で、単一施設での12週間の試験であることなど、結果の読み取りに影響する条件も著者ら自身が挙げており、ビタミンDに関する発見とその血糖との関係は、より大規模な研究で確かめる必要があると結論づけられています。

著者:Xu Lingzhi(Health Management Center Wuxi Hospital of Traditional Chinese Medicine Wuxi Jiangsu Province China)、Zhou Chunhua(Health Management Center Wuxi Hospital of Traditional Chinese Medicine Wuxi Jiangsu Province China)、Liu Wu(Health Management Center Wuxi Hospital of Traditional Chinese Medicine Wuxi Jiangsu Province China)、Ding Jiejin(Health Management Center Wuxi Hospital of Traditional Chinese Medicine Wuxi Jiangsu Province China)、Yuan Yimin(Health Management Center Wuxi Hospital of Traditional Chinese Medicine Wuxi Jiangsu Province China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xu Lingzhi, Zhou Chunhua, Liu Wu, et al. Comparison of Traditional Chinese Exercise and Equipment‐Based Exercise on Glycaemic Control and Vitamin D Levels in Middle‐Aged and Elderly Patients With Prediabetes: A Randomised Controlled Trial. Endocrinology Diabetes & Metabolism 2026-09-01. DOI: 10.1002/edm2.70326. 原著ライセンス:CC BY.