スナック菓子や揚げ物、甘い飲み物といった「ジャンクフード」は、味の良さや手軽さ、広告、友人からの影響などによって、思春期の若者の間で世界的に食べられ続けています。インド国内でも、学校に通う思春期の生徒を対象にした調査で、ジャンクフードの摂取が広く見られることが報告されてきました。インド・タミル・ナードゥ州のバラティアール大学の研究者らは、こうした背景を踏まえ、健康リテラシー、広告への気づき、環境的な持続可能性、そして食べ方への意識(マインドフル・イーティング)を同時に扱う学校向けの教育プログラムを開発し、その内容と妥当性の検証過程を報告する論文を発表しました。

研究の背景

思春期は生涯にわたる食習慣が形づくられる重要な時期とされています。インドの研究では、北チェンナイの15歳の生徒の間でジャンクフードへの強い嗜好が確認されたほか、ヒマーチャル・プラデーシュ州の農村部の学齢期の子どもの3分の1以上が、調査前24時間以内にジャンクフードを食べていたと報告されています。さらに、タミル・ナードゥ州コインバトール県の6つの私立学校に通う1,181人の思春期の生徒を対象にした基礎調査(同著者らによる先行研究)でも、3分の1以上が高頻度でジャンクフードを摂取しており、お小遣いの有無や栄養に関する知識が摂取頻度と関連することが示されていました。この論文は、こうした地域の実態調査をふまえて開発されたプログラムを紹介しています。

論文はまた、ジャンクフード摂取を後押しする要因として、テレビ・パッケージデザイン・有名人の起用・SNSなどを通じた食品マーケティングの影響と、友人同士の間でジャンクフードが「祝い事」や「仲間意識」の象徴として扱われる社会的な規範の2つを挙げています。加えて、食の選択は健康だけでなく環境への影響も伴うという考え方(持続可能な食事)にも触れ、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が、健康的で環境負荷が低く、入手しやすく、文化的に受け入れられる食事パターンを「持続可能な食事」と定義していることを紹介しています。

開発されたプログラムの内容

研究チームが開発したのは「Junk Food Unwrapped: Eat Smart, Live Strong!」と名付けられた、5日間・各60〜90分のプログラムです。対象は10〜17歳前後の思春期の生徒で、外部の専門家ではなく学級担任などの教師が、絵カードや模造紙、筆記用具といった低コストな教材だけで実施できるように設計されています。

プログラムは行動計画理論(知識・態度・行動コントロール感が行動の意図につながるという考え方)や体験学習の考え方を土台にしており、開発は3段階で進められました。まず、コインバトール県などの地域データに基づく実態把握(形成的ニーズアセスメント)を行い、次に行動教育理論に沿った内容作成を行い、最後に専門家パネルによる内容妥当性の検証を行うという流れです。専門家パネルによる検証では、教育・公衆衛生評価などで広く使われるロウシェ(Lawshe, 1975)の内容妥当性の考え方に基づき、栄養・公衆衛生、学校教育、ソーシャルワークの専門家が各章の目的・内容・活動を関連性・明確さ・年齢適合性の観点から評価し、基準を満たさない項目は修正・削除される設計になっています。改訂後のモジュールは、少人数の生徒と教師でのプレテスト(試行)を経て、内容や進行時間、活動への取り組みやすさを確認したうえで最終調整される予定であることも述べられています。

全5章のテーマは以下の通りです。

  • 1日目「ジャンクフードとその影響を理解する」:ジャンクフードの定義・分類、揚げ物・ベーカリー製品・甘い飲料・加工肉といった代表的なカテゴリー、糖分・不健康な脂肪・ナトリウムが多く栄養密度が低いという特徴を学ぶ。絵カードによる仕分け作業や、食べたものを記録する日誌の宿題を行う。
  • 2日目「ジャンクフードが健康に与える影響」:エネルギーの変動や集中力の低下、消化不良といった短期的な影響と、肥満、心血管疾患、2型糖尿病、微量栄養素の不足といった長期的なリスクを扱う。小グループでの話し合いや、健康について振り返る作文課題を行う。
  • 3日目「マーケティングと社会的な規範」:感情に訴える広告表現、有名人の起用、パッケージデザイン、SNSなどのデジタルマーケティング、友人関係による摂取の規範化を扱う。広告分析の演習や、広告の「手口リスト」をグループで作成する活動、自分自身が受けている広告の影響についての振り返り作文を行う。
  • 4日目「持続可能な食の選択」:FAO・WHOが掲げる持続可能な食の原則、加工度の低い・地元産・旬の食材、食品ロスの削減、倫理的な調達などを扱い、ジャンクフードを持続可能な選択肢に置き換える対応表を作成する。「ジャンクフードは魅力的な罠か?」という題での説得文(エッセイ)作成や、ポスター・スローガンの制作も行う。
  • 5日目「マインドフル・イーティングと健康的な習慣」:食べている間に意識を向けること、空腹・満腹のサインへの気づき、ゆっくり食べること、意識的な食の選択、感情に任せた食事への気づきを扱う。「マインドフル・イーティングは健康習慣づくりの最善の方法か」というテーマでの構造化されたディベートや、マインドフル・イーティングの記録日誌をつける。

各回は、誕生日会や学食、SNSへの食の投稿といった生徒の日常に即した場面設定から始まり、内容の説明、4〜6人の小グループでの参加型活動、振り返りの問いかけ、そして授業外でも学びを継続するための宿題という流れで構成されています。いくつかの章の終わりには、教室内に「ジャンクフードの壁」を作る、栄養士を招いた講演を行う、学校で「ジャンクフードなしの日」を設けるといった発展的な活動も提案として挙げられています。なお、地域性を反映させるため、ラギ(雑穀)のドーサ、スンダル(豆の惣菜)、ムルック(南インドの揚げ菓子)といった、コインバトール周辺(コング地域)で親しまれている食品が具体例として取り入れられています。

効果検証の枠組みと、この研究を読むうえでの注意点

この論文で報告されているのは、あくまでプログラムの開発と内容妥当性検証の段階までであり、実際に生徒に実施してその効果を測定した結果ではありません。著者らは、今後の効果検証のための枠組みとして、プログラム実施の前後で比較する準実験デザイン(比較対照群を置く方式)を提案しています。具体的には、ジャンクフードの識別・健康影響・マーケティングリテラシー・持続可能な食やマインドフルな食事に関する知識・態度・実践(KAP)を測る尺度と、コインバトールでの基礎調査で使われた指標をもとにした「ジャンクフード頻度指数」を、プログラム実施の直前・直後、および4〜6週間後の追跡調査で測定する案が示されています。

著者らは、類似する国内外の学校ベースの栄養教育プログラムの結果を踏まえ、知識や態度については短期間でも統計的に意味のある向上が見込める一方、実際にジャンクフードを食べる頻度が減るといった行動面の変化は、より緩やかにしか現れない傾向があると述べています。これはマインドフル・イーティングに関する既存のカリキュラムでも共通して見られたパターンだとしています。

著者ら自身が挙げている限界としては、①自己申告や頻度に基づく測定は、思春期の生徒の食事に関する自己報告にありがちな社会的望ましさバイアスや記憶違いの影響を受けやすいこと、②無作為化を伴わない準実験デザインのため因果関係の証明には限界があること、③単一地域でのパイロット実施であるため、タミル・ナードゥ州内の多様な農村・都市部の学校環境への一般化には限界があることが述べられています。著者らは、これらを補うため、今後は教師による観察との組み合わせ、より多くの学校を含む大規模なサンプル、より長期の追跡調査が必要だとしています。また、家庭でのお小遣いの使い方や広告への接触など、教室の外にある要因が行動変化に影響しうることから、今後は家族を巻き込む要素も検討すべきだと述べています。

まとめ

この論文は、インド・タミル・ナードゥ州の思春期の生徒を対象に、ジャンクフードへの理解、健康影響、マーケティングへの気づき、持続可能な食の選択、マインドフルな食べ方という5つのテーマを5日間で扱う学校向け教育プログラムの開発過程と、専門家パネルによる内容妥当性の検証手法を報告したものです。地域に親しみのある食品を取り入れ、教師が低コストな教材だけで実施できるよう設計されている点が特徴とされています。ただし本論文の段階では、実際に生徒に対して効果があったかどうかを示すデータは示されておらず、著者ら自身も、広域での展開に先立って実証的なパイロット試験が必要だとしています。今後の追跡研究の結果を待つ必要がある、一つの研究報告として捉えるのが妥当です。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ジャンクフードを解き明かす:タミル・ナードゥ州の青少年における持続可能な食選択を促進するための5日間の学校ベース介入モジュールの開発と内容妥当性検証(インターナショナル・ジャーナル・フォー・マルチディシプリナリー・リサーチ・2026年08月)