トリュフは独特の香りで知られる高級食材ですが、形や品質にばらつきがあり、香りの弱い低グレード品は市場価値が低くなりがちです。今回紹介する研究では、中国産の黒トリュフ(Tuber indicum)のうち評価の低い原料を対象に、水で抽出した後に発酵させるという加工方法を試し、発酵の進行にともなって香りや風味成分がどのように変化するのかを詳しく調べています。
研究チームは河南農業大学のたばこ科学系に設けられた河南省フレーバー・フレグランス工学技術研究センター、および広東省中国たばこ工業有限公司に所属しています。トリュフというと食品分野の研究に思えますが、著者の所属からは香料・フレーバー技術の研究拠点であることがうかがえます(ただし、この所属だけから研究の結論を推測することはできません)。
発酵で香りはどう変わったのか
研究では、黒トリュフの抽出液を発酵させながら、人による官能評価と、香り成分(揮発性化合物)および非揮発性の代謝物を分析する手法(メタボロミクス)を組み合わせて、風味の変化を追跡しました。その結果、発酵が進むにつれて、もともとの「土っぽい」「皮革のような」香りの特徴が薄れ、代わりに「バターのような」「フルーティーな」「発酵由来」といった、より好ましく感じられる香りの傾向へと変化したことが報告されています。
実験条件のもとでは、発酵6日目が最も発酵が進んだ状態として観察され、この時点で香り成分(揮発性化合物)の含有量もピークに達したとされています。
香りの鍵となる成分とその代謝経路
においの強さへの寄与度を示す指標(Odor Activity Value、OAV)を用いた分析により、香りの決め手となる化合物が24種類特定されました。これらは主にアルコール類とエステル類で構成されており、その中にはフェネチルアルコールが含まれていたとされています。
さらに、代謝経路を解析する手法(KEGGパスウェイ解析)を用いた結果、こうした香り成分の形成には、アラニン・アスパラギン酸・グルタミン酸代謝、バリン・ロイシン・イソロイシンの生合成、そしてTCA回路(クエン酸回路)と呼ばれるエネルギー代謝の経路が主に関わっていることが示されたとしています。つまり、発酵によって微生物や酵素がアミノ酸やエネルギー代謝に関わる経路を通じて働きかけ、香り成分を作り出していく過程がうかがえる結果となっています。
この研究の位置づけ
この研究は、特定の実験条件下で黒トリュフ抽出物を発酵させた際に観察された結果に基づくものであり、発酵によって風味が改善されると断定するものではありません。あくまで一つの研究として、香り形成の背後にある代謝的な仕組みを探る手がかりを示したものです。研究チームは、こうした知見が高付加価値な調味料の開発に向けた理論的な基盤になりうるとしています。
まとめ
低グレードの黒トリュフであっても、水抽出と発酵を組み合わせることで、土っぽさが薄れ、バターやフルーツを思わせる香りへと変化しうることが、官能評価と成分分析の両面から示されました。発酵6日目に香り成分がピークを迎え、アミノ酸代謝やTCA回路といった代謝経路がその背景にあると推定されており、今後の調味料開発の基礎資料となることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yiye Luo, Lin Yuan, Ruohan Qi, et al. Insights into the potential metabolic basis of flavor formation during fermentation of black truffle (Tuber indicum) extract: combining sensory evaluation with metabolomics. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104260. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.