普段は捨てられがちなシイタケの軸と、黒米に含まれる色素成分アントシアニン。この2つを組み合わせた「複合体」を作り、それをお米のデンプンに混ぜるとゲルの性質がどう変化するかを調べた研究です。研究チームは中国・吉林農業大学食品科学工程学院を中心とするメンバーで構成されており、フード・ケミストリー:エックス誌に2026年8月に掲載予定です。

研究の出発点は、食品廃棄物の有効活用という視点にあります。シイタケの軸(石突き)は栽培・加工の過程で全体の重量の約25〜30%を占める副産物ですが、繊維質で食べにくく廃棄されやすいとされています。論文によれば、中国国内で2022年に生産されたシイタケは1313万トンにのぼり、軸の発生量は年間およそ328万〜394万トンと推定されるといいます。この軸には不溶性食物繊維が60〜70%以上含まれているとされ、食物繊維の原料として活用できる可能性が指摘されています。

シイタケの軸を「爆砕」で変化させ、黒米の色素を吸着させる

研究ではまず、シイタケの軸から取り出した不溶性食物繊維(論文中ではSMIDFと表記)に、水蒸気を使った「爆砕(スチームエクスプロージョン)」という物理的な処理を施しています。具体的には0.8MPaの圧力で90秒間処理し、得られた繊維をSEIDFと名付けています。原子間力顕微鏡(AFM)で表面を観察したところ、未処理のSMIDFは比較的なめらかで密な表面だったのに対し、爆砕処理後のSEIDFは表面が緩み、凹凸や膨らみが増えて粗く多孔質な構造になっていたと報告されています。表面粗さを示す数値(平均粗さRa、二乗平均平方根粗さRq)も、処理後のほうが明確に高くなっていました。

この粗く多孔質になった構造に、黒米由来のアントシアニン(BRA)を吸着させています。吸着条件を検討した結果、pH5、温度35℃、BRA溶液濃度7mg/mLという条件で、1gあたり35.3mgという吸着量が得られたとされています。吸着の進み方を数式的なモデルで解析したところ、シイタケの軸の繊維とアントシアニンの結びつきは主に「物理的な吸着」によるもので、多層的に、かつ表面のいろいろな場所に不均一に付着するタイプの吸着だったと考察されています。爆砕処理をしたSEIDFは、未処理のSMIDFよりも吸着能力が高かったといい、爆砕によって繊維の内部構造が露出し、吸着できる場所が増えたためではないかと述べられています。

複合体はただの「混ぜもの」ではない

単純にアントシアニンと繊維を混ぜ合わせただけの試料(SEIDF-BRA混合物)と、吸着によって作った複合体(SEIDF-BRA複合体)を比較する実験も行われています。蛍光顕微鏡で観察すると、アントシアニン自体がもつ蛍光は、単純に混ぜただけの試料では強く見えた一方、吸着によって作った複合体では蛍光が弱まっていたとされています。これは、アントシアニンが繊維の網目構造に取り込まれ、繊維側の官能基としっかり結びつくことで、蛍光が消光したためではないかと考察されています。赤外分光分析(FT-IR)やX線光電子分光分析(XPS)からも、複合体では水素結合が強まり、C=OやC-Oといった官能基がより多く表面に露出していたことが確認されており、共有結合ではなく水素結合を含む非共有結合的な相互作用によって、熱に対しても比較的安定な複合体が形成されたとまとめられています。

お米のデンプンに加えるとゲルの性質が変わる

できあがったSEIDF-BRA複合体を、お米のデンプンに対して0〜8%の割合で加え、加熱・冷却して作ったゲルの性質を調べています。その結果、複合体を加えることで、デンプンが糊化し始める温度や粘度が上がる一方、冷めたときに再び硬く老化してしまう現象(デンプンの老化・retrogradation)は抑えられる傾向がみられたとされています。また、レオロジー特性(流動・変形のしやすさ)やテクスチャー(食感に関わる物性)、さらに20人の訓練されたパネル(男女10名ずつ、22〜30歳)による官能評価でも、風味や食感の面で好ましい方向への変化が確認されたと報告されています。構造面では、X線回折分析により複合体を加えたデンプンゲルは結晶化度や規則性がやや低下し、電子顕微鏡や共焦点顕微鏡による観察では、ゲルの網目構造の多孔性や架橋の度合いが高まっていたとされ、これらの構造変化がゲル物性の変化と関係している可能性が考察されています。

この研究をどう読むか

この研究は、これまで廃棄されがちだったシイタケの軸を食物繊維源として活用し、黒米のアントシアニンと組み合わせることで、機能性食品素材としての可能性を探索した基礎研究です。今回示されたのは主に実験室レベルでの構造解析とデンプンゲルへの影響であり、実際の食品での風味や保存性、あるいは健康への効果を保証するものではありません。論文の著者らも、この複合体が「機能性食品素材となる可能性」を持つとしており、あくまで一つの研究段階の知見として捉える必要があります。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Hongxiu Fan, He Gao, Yumeng Zhang, et al. Preparation of modified shiitake mushroom stem insoluble dietary fiber and black rice anthocyanin complex and its effects on the gel properties, rheological properties and microstructure of rice starch. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104344. 原著ライセンス: cc-by.