著者の所属・活動拠点の国は、エチオピアです。
掲載誌:Translational Food Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トマトには、カロテノイド(赤色色素のリコピンやβ-カロテンなど)、ポリフェノールなどのフェノール化合物、L-アスコルビン酸(ビタミンC)といった成分が含まれています。これらは体に何らかの働きをもつ可能性があることから「生理活性成分」と呼ばれ、トマトの抗酸化能(物質の酸化を抑える性質を試験で測った値)にも関わるとされています。トマトは生で食べられるだけでなく、ソース、ペースト、乾燥品などさまざまな形に加工されるため、加熱によってこれらの成分がどう変わるかは重要な関心事です。
著者らによれば、これまでの研究では、加熱後に抗酸化能が上がったという報告もあれば、変わらない、あるいは下がったという報告もあり、とくにフェノール化合物と抗酸化能については結果が一致していませんでした。そこで研究チームは、煮る、蒸す、焼く、炒める・揚げる、電子レンジ加熱、加圧処理、オーブン乾燥、天日・太陽熱乾燥といった代表的な加熱処理の影響を比較して整理しました。その際、酸素にさらされる程度、水を使う加熱か水を使わない加熱か、油の有無、そしてトマトの組織構造(食品の「マトリックス」)が結果の違いにどう関わるかに注目しています。
どのように調べたか
著者らは、系統的レビューの報告手順を示す国際的な指針(PRISMA 2020)を参考に、Google ScholarとScopusという2つの文献データベースで、発表年を限定せずに論文を探しました。対象としたのは、トマトに対して温度や時間などの条件が明記された加熱処理を行い、ビタミンC、リコピン、総カロテノイド、総フェノールのいずれか、または抗酸化能を測定した英語の論文です。
論文によると、検索で見つかった412件の記録から重複を除き、題名と要旨、続いて本文を確認して絞り込んだ結果、15件の研究が最終的に採用されました。各研究は、試料の説明、加熱条件の明記、実験の繰り返し、測定方法、統計解析などの観点からも評価されました。著者らは、丸ごとのトマト、種子、種子油、搾りかす、加工品など研究ごとに試料が大きく異なり、研究同士を単純に比べにくいことにも注意を払ったうえで結果を解釈したと述べています。
主な結果
成分ごとに見ると、最も熱に弱かったのはビタミンCで、ほとんどの加熱方法で大きく減っていました。とくに高温、長時間、水との接触がある条件で減少が目立ちました。著者らは、熱による分解に加え、煮る調理では水に溶け出す損失も重なると説明しています。
一方、リコピンを含むカロテノイドは比較的熱に強く、穏やかな加熱では増加するか、はっきりした変化が見られないという報告が多くありました。著者らは、加熱で細胞の壁や色素を含む構造が崩れ、成分を取り出しやすくなることや、リコピンの分子の形が変わること(異性化)が関わると考えています。ただし、強い加熱では分解が進み、特に油分の多い試料では損失が目立ったとされています。フェノール化合物は、中程度の加熱で増え、長時間や高温の加熱で減るという、条件によって異なる結果でした。
抗酸化能は最もばらつきの大きい項目でした。極端な条件では下がる一方、中程度の加熱では、個々の成分が減っていても抗酸化能はむしろ上がることがしばしばありました。著者らは、組織構造の変化で成分が抽出されやすくなることや、加熱中に生じる反応生成物(糖とアミノ酸が反応してできるメイラード反応生成物など)が影響している可能性を挙げています。
加熱方法別では、煮る調理ではビタミンCが失われやすく、蒸す調理は水との接触が少ないため成分が比較的よく保たれる傾向がありました。焼く・揚げる調理は、穏やかな条件ではフェノールや抗酸化能を高めることが多いものの、強くなるとカロテノイドやビタミンCが分解されました。電子レンジや加圧処理は強さによって結果が分かれ、中程度の条件では成分が保たれるか増える傾向でした。オーブン乾燥や太陽熱乾燥では、水分が抜けて濃縮されることもあり、カロテノイドやフェノール、抗酸化能が高くなる例が多く見られましたが、ビタミンCは一貫して減少しました。また、管理されていない長時間の天日乾燥では、光による酸化などで損失が大きくなりやすいと報告されています。
この研究が示すこと
このレビューは、加熱がトマトの成分を「減らす」か「増やす」かは一概には言えず、温度、時間、加熱方法、さらに酸素・水分・油の有無やトマトの組織の状態が組み合わさって決まることを示しています。著者らは、適度な加熱は成分を取り出しやすくする方向に働き、行き過ぎた加熱は分解の方向に傾けるという、組織構造の二面的な働きによって、これまでの一見矛盾した報告をある程度説明できるとしています。加工や調理の条件を調整することが、トマトの成分を保つうえで重要だというのが、論文の示す結論です。
原著論文の著者・所属:Habtamu Kide Mengistu(Department of Food Science and Postharvest Technology, Haramaya Institute of Technology, Haramaya University , Ethiopia P.O.Box-138, Dire Dawa , , [email protected])、Tuji Jemal Ahmed(Department of Food Technology and Process Engineering, Haramaya Institute of Technology, Haramaya University , P.O.Box-138, Dire Dawa , , [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Habtamu Kide Mengistu, Tuji Jemal Ahmed. Review article : Effect of different thermal processing on bioactive compounds and antioxidant capacity of tomato ( Solanum lycopersicum L.). Translational Food Sciences 2026-10-17. DOI: 10.1093/trfood/vxag026. 原著ライセンス:CC BY.