ネギ属の植物といえばニンニク(Allium sativum L.)の健康効果に関する研究が広く知られていますが、東アジアの食文化に古くから根付いてきた「ワケギ」(Allium fistulosum L.)については、比較的研究が少ないままだといいます。韓国の伝統医学書『東医宝鑑(トンイボガム)』には、ワケギの鱗茎(球根の部分)が「葱白(チョンベク)」として薬効を持つと記されているそうです。今回紹介する論文は、こうした伝統的な利用の背景にある科学的な根拠を、これまでに発表された研究をもとに整理し直した「スコーピングレビュー」です。
研究でわかったこと
研究チームは、PubMed、MEDLINE、Web of Scienceという3つの学術データベースを使い、2005年1月から2025年6月までに発表された論文を、PRISMA-ScRという系統的レビューのガイドラインに沿って検索・選定しました。その結果、条件を満たした22件の研究が対象となりました。これらの研究では、葉、葉鞘(茎の部分)、鱗茎、根、種子といった、アジアの食生活で幅広く利用されているワケギの各部位が検討されていたということです。
これまでの研究を整理した結果、ワケギには免疫調節(サイトカインと呼ばれる情報伝達物質の働きの調整や、抗酸化酵素の活性化に関わるとされる)、代謝調節(血中の脂質や血糖値の変化に関連するとされる)、骨の成長(成長因子の活性化に関わるとされる)といった生物学的な働きと関連する報告があるとまとめられています。あわせて、これらの働きに関わる可能性がある主要な生理活性成分として、アリインやアリシンといった含硫化合物、フェルラ酸やケルセチン、ルチンなどのポリフェノール類、そしてサポニンなどのステロイド配糖体が、複数の研究にわたって確認されたとしています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、ワケギそのものを対象にした新しい実験を行ったものではなく、既存の研究成果を集めて整理・要約した「スコーピングレビュー」である点に注意が必要です。個々の元論文がどのような研究デザイン(培養細胞や動物を使った基礎研究か、ヒトを対象にした研究かなど)だったのかについては、この要旨だけからは詳しく分かりません。また、レビューという性質上、ワケギを食べることで直接的に健康効果が得られると断定するものではなく、あくまで「これまでにこうした関連が報告されている」という現時点での知見の整理という位置づけです。今後、機能性食品や医薬品素材としての開発につなげるための土台になることが期待されている段階だと理解しておくとよいでしょう。
まとめ
今回紹介した論文は、ニンニクなど他のネギ属植物と比べて研究が手薄だったワケギについて、免疫調節・代謝調節・骨の成長といった働きに関連する報告や、含硫化合物・ポリフェノール・ステロイド配糖体といった成分が確認されてきたことを、これまでの文献をもとに整理したものです。日常的な食材としてなじみ深いワケギが、今後どのような形で研究が深められていくのか、注目していきたいテーマといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ワケギ(Allium fistulosum L.)の生理活性フィトケミカルと健康増進効果:スコーピングレビュー(ジャーナル・オブ・エスニック・フーズ・2026年08月)