大麦には、食後の血糖値上昇をおだやかにしたり血中コレステロールを正常に保ったりする働きが報告されている食物繊維「β-グルカン」が含まれています。とくにモチ性(もち麦)の大麦はウルチ性の大麦に比べてβ-グルカンを多く含むことが知られ、健康機能性の面で注目されています。ただし、モチ性の大麦には炊飯したときににおいが強かったり、酸味や苦味が気になったりして食味が劣るものがあることも知られています。どれほど機能性が期待できても、日々の食事として続けて食べられなければ意味がありません。そこで今回紹介する研究では、炊飯した大麦の食味が落ちる原因を明らかにするため、食味の評価と、大麦に含まれる有機酸との関係が調べられました。
どのように調べたのか
研究グループは、2021年から2024年にかけて各地の産地や育成地で栽培・収穫された大麦19品種33系統を対象にしました。これらを5か所の試験用の搗精機(とうせいき、玄麦の外皮を削って白くする機械)を使い、皮麦は55%(一部65%)、裸麦は60%(一部70%)まで精麦し、合計164点の搗精麦(精麦したもの)を用意しました。精麦したものに2.2倍の水を加え、25℃で1時間浸漬してから炊飯し、福井県産の「ファイバースノウ」という品種を毎年の基準として、3名のパネルが「外観」「におい」「食感」「味」の4項目を、-3(とても悪い・かたい)から+3(とても良い・やわらかい)までの7段階で評価し、平均値を求めました。あわせて、精麦したものを粉砕した粉に3ミリモルの過塩素酸を加えて有機酸を抽出し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という分析法で、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸の含有量を測定しました。
食味と有機酸のあいだにみえた関係
食味評価の結果、外観はウルチ性のほうが評価が高く(2021年・2024年で有意差あり)、においもウルチ性のほうが高く評価されました(2021年・2022年で有意差あり)。一方、食感はモチ性のほうがやわらかいと評価され(調査した4年ともに有意差あり)、味についてはモチ性のほうが低く評価されていました(同じく4年ともに有意差あり)。また、同じ産地・同じ精麦場所の品種や系統について年ごとの評価を比べたところ、食感と味の評価はいずれの年も互いに強い相関があり、再現性のある評価ができていたことが確認されています。
有機酸の分析では、測定した4種類のうちリンゴ酸の含有量がもっとも多く、ウルチ性が1グラムあたり平均11.2マイクロモル(標準偏差3.1)であったのに対し、モチ性は平均14.4マイクロモル(標準偏差5.4)と有意に高い値を示しました。さらに、このリンゴ酸の含有量と味の評価との間には、2022年でr=-0.586(データ数32)、2023年でr=-0.519(データ数40)、2024年でr=-0.719(データ数40)という、いずれも有意な負の相関が見られました。つまりリンゴ酸が多い試料ほど味の評価が低くなる傾向が示されたことになります。これらの結果から、研究グループはリンゴ酸が炊飯大麦の味の低下の一因である可能性を示唆しています。
この研究を読むうえで
この研究は、日本国内の研究者らによって行われ、国内各地で栽培・収穫された大麦品種・系統や、福井県産の「ファイバースノウ」を基準として用いるなど、日本の大麦生産や食習慣に根ざした調査となっています。示された関係は、あくまで今回調べられた品種・系統や年次のデータにもとづく相関であり、リンゴ酸の量だけで味の良し悪しがすべて決まるわけではありません。今回の要旨ではリンゴ酸以外の有機酸(クエン酸、コハク酸、酢酸)と味との関係については具体的な相関の強さは示されておらず、味の低下にはほかの要因も関わっている可能性があります。一つの学会発表としての報告であり、結論が確定したものではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
この研究では、モチ性大麦とウルチ性大麦の炊飯後の食味を比較評価するとともに、含まれる有機酸を分析し、両者の関係を調べました。その結果、モチ性大麦は食感がやわらかい一方で味の評価が低い傾向があり、味の低下にはリンゴ酸含有量の高さが関わっている可能性が示唆されました。大麦のβ-グルカンによる健康機能性を活かしつつ食べやすさも両立させるための一つの手がかりとなる報告といえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Noriko Kohyama, Nagamine Takashi, Takahashi Asuka, et al. 炊飯麦の食味と有機酸との関係. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_386.