トマトに含まれる赤い色素成分「リコピン」には、抗酸化作用があることで知られています。これまでにトマトジュースを一度飲むだけで食後の血糖値上昇が抑えられたとする報告があり、トマトに含まれる食物繊維が糖の吸収を妨げているのではないかと考えられてきました。一方でリコピン自体についても、ラットを使った実験で血糖値の調整能力(耐糖能)を改善する可能性が示されています。しかし、人を対象にリコピンと血糖値の関係を調べた臨床試験はまだ少なく、どのような仕組みで効果が現れるのかもはっきりしていませんでした。今回紹介する研究は、この点を確かめるために行われたものです。
どのように調べたのか
研究グループは、20歳から64歳までの、血糖値がやや高めの健康な成人男女6名を対象に試験を行いました。参加者を分け、どちらがリコピンでどちらが偽薬(プラセボ)かを本人にも研究者にもわからないようにしたうえで比較する、ランダム化二重盲検クロスオーバー試験という方法が用いられています。参加者は、リコピンを12.38mg含むカプセル、またはプラセボカプセルを1日2粒、朝食前に4週間毎日摂取しました。
効果を確かめるタイミングは2回設けられました。1回目は摂取を始めた初日、2回目は4週間継続摂取したあとです。いずれも12時間絶食した状態でカプセル2粒を摂取し、続けて白米150gを食べてもらい、食前から食後120分までの血糖値とインスリンの値を経時的に測定しています。得られた数値からは、血糖値のピーク(Cmax)や食後の血糖値上昇の程度を表す指標(IAUCや⊿Cmaxなど)、インスリンの値、さらにインスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRが算出されました。
わかったこと
まず、摂取を始めた初日、つまりリコピンを単回摂取しただけの段階では、食後血糖値への影響は見られませんでした。ところが4週間リコピンを継続摂取したあとに改めてリコピンを食前に摂取したところ、プラセボ群と比べて食後血糖値のピーク(Cmax)が統計的に有意に低くなったことが報告されています。また、血糖値の変動幅を示す⊿Cmaxや、食後60分・120分時点の血糖値についても、低い傾向が見られました(統計的な有意水準には届かないものの、その傾向が示されています)。一方で、食後血糖値の変動全体を表すIAUCや、インスリンの値、HOMA-IRについては、明確な差は認められませんでした。
研究チームは、単回摂取では効果が見られず継続摂取後にのみ効果が現れたことから、リコピンによる食後血糖値上昇の抑制は、トマトジュースで示唆されていたような「糖の吸収を妨げる」仕組みではなく、継続的な摂取によって体の耐糖能そのものが変化した結果ではないかと考察しています。
この研究を読むうえでの注意
この報告は、参加者が6名という小規模な試験に基づくものです。対象者は血糖値がやや高めの健康な成人に限られており、より幅広い年齢層や健康状態の人にそのまま当てはまるかどうかは、この研究だけでは判断できません。また、血糖値のピーク値には差が見られた一方で、食後の血糖値上昇全体を示すIAUCやインスリンの値には差が見られなかった点も踏まえると、リコピンの効果がどの程度のものかは今後さらに検証が必要といえそうです。なお、この研究は日本食品科学工学会大会講演要旨集に発表されたもので、著者には日本の研究機関に所属する研究者が含まれています。
まとめ
今回の研究では、血糖値がやや高めの健康な成人を対象に、リコピンを4週間継続的に摂取したうえで食前にリコピンをとると、食後の血糖値のピークが抑えられる傾向が報告されました。単回摂取では効果が見られなかったことから、糖の吸収を妨げるというよりも、継続摂取によって体の糖代謝の働き自体が変化した可能性が示唆されています。ただしこれは6名を対象とした一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後、より多くの参加者を対象とした研究によって、この効果や仕組みがさらに検証されていくことが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yasushi Tanaka, Moeno Aihara, Iori Goto, et al. リコピンの継続摂取は食後血糖値の上昇を抑制する. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_67.