スーパーの棚に並ぶ農産物や加工食品を選ぶとき、私たちは味や価格だけでなく、産地や品質の裏付けにも安心感を求めています。工業製品と違い、農林水産物や加工食品では安全性、健康への配慮、表示の信頼性、季節性、そしてその土地ならではの「地域らしさ」が評価を大きく左右します。今回紹介する研究は、島根県産業技術センターの永瀬光俊氏が2026年9月開催予定の日本食品科学工学会大会で報告する内容で、島根県産食品のブランド価値をどう高めてきたかを、二つの具体的な取り組みを通じて振り返るものです。
トビウオを見分ける技術をつくる
島根県の特産品に「あご野焼」があります。これはトビウオを主原料としたかまぼこの一種で、2000年以降「ふるさと認証食品(Eマーク)」制度によって品質が保証されてきました。ところが、かまぼこに加工されてしまうと、見た目だけでは本当にトビウオが使われているかを判断できないという課題があったといいます。
そこで研究チームは、島根県で県魚とされるトビウオのうち、主要な種であるホソトビウオのミトコンドリア全塩基配列を決定し、これをもとに鑑定技術の開発を進めました。まずPCR-RFLP法という手法を用いて、トビウオ類が含まれているかどうかを判定する定性的な検出を試みました。続いて、画像解析法とリアルタイムPCR法という二つの異なる方法で、どれだけの量のトビウオが使われているかを調べる定量的な検出にも取り組んでいます。
その結果、形やヒレなど見た目の特徴が残っていない場合や、加熱などの加工がされた後の製品であっても、トビウオが使われているかどうかを定性的にも定量的にも鑑定できるようになったと報告されています。この成果は、あご野焼のEマーク基準に用いる分析法として確立され、あご野焼に限らずトビウオ類を使った製品全般の鑑定にも応用できるようになったとされています。
県内資源の機能性に着目した20年以上の研究の積み重ね
島根県では1995年から、県内の農林水産資源を地域独自の素材ととらえ、その生理活性機能(体に何らかの作用をもたらす性質)に着目した新商品開発や技術開発の研究が始まりました。当初は一般的な研究課題として位置づけられていましたが、1990年代に国内の健康食品市場が急成長を続けたことを受けて、県内産業の振興が期待できる重要テーマとしてプロジェクト研究に格上げされたといいます。以後、健康食品産業化プロジェクト(2003~2007年)、機能性食品産業化プロジェクト(2008~2012年)、高齢化社会対応の機能性素材開発プロジェクト(2013~2017年)、そして生物機能応用技術開発プロジェクト(2018~2023年)と、テーマを変えながら20年以上にわたり研究が続けられてきました。
2018年からの生物機能応用技術開発プロジェクトでは、競争力・付加価値の高い美容健康関連製品の開発が中心テーマとされ、発酵・熟成といった生物機能を用いた新規素材の開発や製品開発の支援、そして機能性表示食品・栄養機能食品としての届出支援を通じた販路開拓が行われました。具体的な成果として、キクバヤマボクチという植物の抗炎症作用や、アケビの抗肥満効果が確認され、特許取得につながったことが報告されています。このほか、日本酒に含まれる美肌成分とされるαEGや、葛の地上部を用いた新製品開発にも取り組んだとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この発表は、島根県という一つの地域が20年以上にわたって重ねてきた食品ブランド価値向上のための技術支援活動を、講演者自身がまとめて紹介したものです。トビウオの鑑定技術や、キクバヤマボクチ・アケビなどの機能性に関する成果が報告されていますが、これらは個々の研究や産業支援の積み重ねの一部であり、今回の要旨だけでは各成分や効果に関する詳しい実験条件や数値までは示されていません。抗炎症作用や抗肥満効果といった記述も、あくまで研究・特許取得の文脈で報告されている内容であり、特定の食品を摂取すれば病気の予防や治療につながるといった趣旨のものではない点に注意が必要です。
まとめ
今回紹介した講演は、島根県産業技術センターが県産食品のブランド価値を高めるために行ってきた技術支援の歩みを、トビウオの鑑定技術確立と、20年以上続く機能性素材研究プロジェクトという二つの軸から示したものです。地域の農林水産資源に科学的な裏付けを与える地道な取り組みが、産地表示の信頼性向上や新商品開発を支えてきたことがうかがえる内容といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mitsutoshi Nagase. 島根県産食品のブランド価値向上に関する研究および支援. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_26.