お米を食べたときに残る「胚乳」の部分に含まれるタンパク質には、これまでにも緊張感や不安感をやわらげたり、食欲を高めたりする働きが報告されてきました。ただしこの米胚乳タンパク質(REP)は、効果を得るために必要な摂取量が多くなりがちで、日常的に食べやすい機能性食品として広めるのが難しいという課題があったといいます。そこで研究グループは、REPを酵素で分解して「加水分解物」に加工することで、少量でも生理機能を発揮できる新しい食品素材の開発を進めてきました。今回の研究では、こうして作られたREP加水分解物が、年齢とともに気になりやすい「認知機能」にどのような影響を与えるかを、実際に人を対象とした試験で確かめています。

どのように調べたのか

対象となったのは、50歳以上69歳以下の健康な男女40名です。参加者はくじ引きのような方法で20名ずつ2つのグループに分けられ、一方にはREP加水分解物を含む食品(1日あたり200mg)を、もう一方には見た目や味を似せたプラセボ(偽の)食品を、12週間にわたって摂取してもらいました。研究に関わるスタッフも参加者自身も、どちらのグループに割り当てられたかを知らされない「ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験」という、薬や食品の効果を確かめる際に信頼性が高いとされる方法がとられています。

認知機能の評価には、パソコンで行う検査ツール「Cognitrax」と「あたまの健康チェック(拡張版)」が使われました。また、体感的な生活の質(QOL)を調べるために「SF-36v2 日本語版」というアンケート調査も行われています。さらに安全性を確認するため、血圧などのバイタルサイン、体格の測定、血液や尿の検査、体調の変化(有害事象)についても記録されました。

わかったこと

12週間の摂取後、Cognitraxに含まれる「SDCテスト」という検査の正解数のスコアが、プラセボ群と比べてREP加水分解物を摂取したグループで有意に高くなったと報告されています。SDCテストは、画面に示される記号に対応した数字を、できるだけ早く正確に入力していく課題です。このタイプの検査では、情報を処理する速さや、複数の情報に同時に注意を向ける力、目で見た情報をすばやく認識する力などが反映されるとされており、研究グループはREP加水分解物の摂取がこうした認知機能に関わる可能性を示唆しています。

一方で、Cognitraxの他の検査項目や、「あたまの健康チェック」、SF-36v2によるQOLの評価では、両グループの間に差は見られなかったとのことです。つまり、認知機能に関するすべての指標で改善が確認されたわけではなく、SDCテストという特定の検査に限って差が見られた、という結果になります。安全性については、REP加水分解物の摂取と関連づけられるような有害事象は確認されなかったと報告されています。

この研究を読むときの注意点

この発表は日本食品科学工学会大会の講演要旨として公表されたものです。今回紹介した内容は要旨に基づくもので、対象者数は40名と限られており、効果が確認されたのもCognitraxの複数ある検査項目のうちSDCテストという一部の指標にとどまります。あたまの健康チェックやQOL調査では差が見られなかった点も踏まえると、この結果だけで米胚乳タンパク質加水分解物に幅広い認知機能改善効果があると結論づけることはできません。一つの臨床試験で得られた知見として捉え、今後さらに研究が積み重ねられていくことが期待される段階だといえるでしょう。

まとめ

お米由来のタンパク質を分解して作られたREP加水分解物を12週間摂取した試験では、記号と数字を対応させる情報処理課題の成績がプラセボ群より高くなったことが報告されました。安全性の面でも大きな問題は見られなかったとされています。ただし効果が見られたのは特定の検査項目にとどまり、対象者数も限られていることから、今後の研究の広がりに注目したいテーマといえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Shimon Abe, Sugimoto Yoshie, Higuchi Yuki, et al. 米胚乳タンパク質加水分解物がヒトの認知機能に与える影響. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_211.