著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry: X
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
お茶は発酵の度合いによって味わいが大きく変わることが知られています。緑茶のような非発酵茶から、麹菌などを利用して長期間熟成させる黒茶まで、同じ茶葉でも仕上げ方次第でまったく異なる風味になります。今回紹介する研究では、健康茶として利用されているトチュウ(Eucommia ulmoides)の葉を原料にした黒茶を取り上げ、発酵の進み具合によって味や成分がどのように変化するのかを詳しく調べています。トチュウ茶は独特の苦味があることが知られており、この苦味がどのような物質によって生じ、発酵によってどう変わるのかを科学的に明らかにしようとした点が、この研究の着眼点です。
研究チームは、中国・華南理工大学食品科学工程学院などに所属する研究者らによるものです。
どのように調べたのか
研究では、トチュウの葉を発酵させずに仕上げた茶(非発酵茶)、軽く発酵させた茶、麹菌による『発花』処理を施した茶、そして長期間発酵させた茶という、発酵の程度が異なる4種類のトチュウ黒茶を用意しました。これらについて、まず味の特徴を比較したうえで、メタボロミクス(代謝物を網羅的に分析する手法)によって非発酵性の代謝物とフラボノイド類(ポリフェノールの一種)を測定し、さらに分子ドッキングという計算手法を用いて、苦味を感じる受容体とフラボノイド成分の結合しやすさを予測しています。
発酵によって何が変わったのか
味の評価では、発酵が進むにつれて苦味、甘味、塩味、そして味の複雑さが段階的に弱まる一方で、酸味とうま味は強まる傾向がみられ、特に長期発酵させた茶でその変化が顕著だったと報告されています。成分分析では、非発酵性代謝物が1799種類、フラボノイド代謝物が102種類同定されました。フラボノイドの総量は、軽く発酵させた段階の茶で最も多く、1kgあたり4703.77±15.75mgに達し、非発酵茶・発花茶・長期発酵茶と比べてそれぞれ188.26%、52.13%、137.58%多い値だったとされています。つまり、発酵のごく初期段階でフラボノイドの蓄積が最大になり、その後の発酵の進行とともに減少していくという流れが示されました。
さらに分子ドッキングの解析では、カテキン、(−)-エピカテキン、イソオリエンチン、ヘスペリジンといったフラボノイド成分が、苦味を感知する受容体の一種であるT2R14と比較的強く結合する可能性が示されました。これらの成分が発酵によって増減することが、苦味の変化と関係している可能性を示唆する結果と位置づけられています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究は、成分の測定結果とコンピューター上での結合予測を組み合わせたものであり、実際に人がお茶を飲んだ際の苦味の感じ方や、体内での吸収・作用まで直接確かめたものではありません。分子ドッキングはあくまで結合のしやすさを計算で推定する手法であるため、その結果が実際の受容体反応をそのまま反映するとは限りません。また、今回明らかになったのは特定の発酵条件下でのトチュウ黒茶における傾向であり、他の茶葉や異なる発酵条件でも同じ結果になるとは言えません。一つの研究成果として、今後さらなる検証が必要な段階にあるといえます。
まとめ
今回の研究では、トチュウ黒茶を発酵の程度別に比較することで、発酵が進むほど苦味や甘味が弱まり酸味やうま味が強まること、そしてフラボノイド含有量が軽い発酵段階で最大になることが示されました。また、特定のフラボノイド成分が苦味受容体と結合しやすい可能性も指摘されています。お茶の製造工程における発酵度の調整が、風味づくりにどう関わっているのかを考えるうえで、興味深い知見を提供する研究といえるでしょう。
原著論文の著者・所属:Jinfeng Zhou(College of Food Science and Engineering, South China University of Technology, Guangzhou 510640, China)、Haocheng Liu(School of Public Health and Health Management, Gannan Medical University, Ganzhou 341000, China)、Xueke Sun(Dongguan Hsu Fu Chi Food Co., Ltd, Dongguan 523118, China; Nestle Research Center Beijing, Beijing 100102, China)、Jiguo Yang(College of Food Science and Engineering, South China University of Technology, Guangzhou 510640, China; South China Institute of Collaborative Innovation, Dongguan 523808, China; Corresponding author at: College of Food Science and Engineering, South China University of Technology, Guangzhou 510640, China.)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jinfeng Zhou, Haocheng Liu, Xueke Sun, et al. Integrated metabolomics and molecular docking reveal fermentation-dependent flavonoid transformation and bitterness attenuation in Eucommia ulmoides dark tea. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104231. 原著ライセンス: cc-by-nc.