中国には鎮江香酢、山西老陳醋、四川保寧醋、福建永春老醋という「四大名酢」と呼ばれる伝統的な醸造酢があり、これらは業界の基準として広く研究されてきました。一方で、四川省宜賓市平山県で作られてきた地域の伝統的な酢「平山多段階発酵酢」については、その品質特性を体系的に調べた研究はほとんどありませんでした。今回、中国・西南大学食品科学学院の研究者らが、この地域産の酢を四大名酢と比較する研究を行いました。
どのように調べたのか
研究チームは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)という分析機器を用いて、酢に含まれる化学成分を測定しました。さらに、DPPHおよびABTSという二種類のラジカル消去活性を調べる試験管内(in vitro)の実験で抗酸化能力を評価し、加えて多変量統計解析によって、平山多段階発酵酢と四大名酢との違いを比較しました。
研究でわかったこと
分析の結果、平山多段階発酵酢は比較対象の酢の中で総フェノール含量が最も高いことが示されました。対象とした9種類のフェノール性成分のうち、クロロゲン酸とバニリン酸が、他の酢との違いを特に大きく分けている成分として挙がっています。また、抗酸化活性の指標であるDPPHおよびABTSラジカル消去活性については、四大名酢と同程度の水準であったと報告されています。
香りに関わる揮発性成分の分析では、フルフラールが最も特徴的な差異を示す成分として検出されました。さらに、エチルブチレートを含む18種類の香気活性化合物(においの強さの指標であるodor activity valueが1を超える成分)が、平山多段階発酵酢の香りの主な構成要素になっていると分析されています。加えて、有機酸と遊離アミノ酸の組成がバランスよく調和していることが、この酢の味わいに関わる化学的な特徴を形づくっていると考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、これまで体系的な品質評価がなされていなかった地域の伝統的な酢について、成分分析と統計的手法を組み合わせて特徴を明らかにした一つの研究です。ここで示された抗酸化活性の値はあくまで試験管内での測定結果であり、人が摂取した場合の健康への影響を直接示すものではない点に注意が必要です。今回の発見が、この酢の効能を保証するものではなく、今後さらなる検証が積み重ねられていく段階にあるものと捉えるのが適切です。
まとめ
今回の研究により、四川省の地域産である平山多段階発酵酢が、総フェノール含量の高さや、フルフラールをはじめとする特徴的な香気成分、バランスの取れた有機酸・アミノ酸組成といった独自の化学的プロファイルを持つことが、中国四大名酢との比較を通じて明らかにされました。地域に根差した伝統発酵食品にも、科学的な光を当てることで新たな特徴が見えてくることを示す研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Dixinxin Yang, Zegang Li, Jiajia Song, et al. Unraveling the unique flavor characteristics and bioactive properties of Pingshan multistep fermented vinegar: a comparative study with the four famous vinegars of China. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104242. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.