著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
食べ物への強い苦手意識や興味の乏しさから栄養不足に陥る「回避・制限性食物摂取障害(ARFID)」は、2013年に診断基準として登場した比較的新しい概念です。やせ願望や体型へのこだわりを特徴とする神経性やせ症(AN)とは異なる背景を持つにもかかわらず、多くの病院ではAN向けに作られた栄養回復プログラムがそのままARFID患者にも使われているのが実情だといいます。今回、米国の小児病院に入院した子どもたちを対象に、鼻からチューブを通して栄養を補う「経管栄養(経鼻胃管、NGT)」の使われ方と体重の変化を、ARFIDとAN・非定型神経性やせ症(AAN)の間で比較した研究がニュートリエンツ誌に2026年8月に掲載予定です。
研究チームには、SSMヘルス・カーディナル・グレノン小児病院やセントルイス大学医学部、ウィスコンシン医科大学に所属する著者が名を連ねています。
どのように調べたのか
対象は2017年1月から2023年6月の間に、栄養不良の医学的安定化を目的として入院し、同一の摂食障害向け栄養回復プロトコルで治療を受けた9〜20歳の患者160人です。内訳はAN・AAN群が126人、ARFID群が34人でした。このプロトコルでは、管理栄養士が作成した段階的な食事計画のもと、1200〜1400kcal程度から栄養療法を開始し、1日あたり約200kcalずつ増やしていく方式が取られていました。食事は30分以内に食べきることが求められ、食べきれなかった分は同カロリーの補助飲料に置き換えられ、それも15分以内に飲みきれない場合にNGTによる補充が行われる仕組みです。ARFID患者については、食べ物の好みについてはANの患者より裁量が広く認められる一方、安全管理のための行動制限(活動制限や排泄の見守りなど)は診断名にかかわらず一律に適用されていたとのことです。なお、2021年8月以降は、ARFID患者で一度NGTが必要になった場合、原則としてチューブを留置し続ける運用に変更されたことも記録されています。
解析では、入院からの体重変化を年齢調整済みのBMI Zスコアという指標で追跡し、患者ごとのばらつきを考慮した統計モデル(一般化線形混合モデル)を用いて、時間経過・診断群・NGT使用の組み合わせが体重増加にどう関係するかを検討しています。
研究でわかったこと
年齢や性別、入院時のBMIには両群で大きな違いは見られなかったものの、ARFID群はAN・AAN群に比べてNGTを必要とする割合が明らかに高いという結果が示されました。一方で、退院時までに達成されたBMIの水準は両群でおおむね同程度だったとされています。つまり、最終的な体重の到達点は似ていても、そこに至るまでに必要とされた経管栄養の量には診断名による違いがあったということです。
さらにARFID群の中でNGTを必要とした患者は、必要としなかった患者に比べて年齢が若く、入院時のBMI Zスコアも低い傾向が見られ、入院期間も長くなっていたことが報告されています。研究チームは、NGTを使った患者の方が体重増加のペースが速かった一方で、これはNGTそのものの効果というより、もともと栄養状態がより深刻だった患者に対して臨床判断でNGTが選択された結果(適応による交絡)である可能性が高いと説明しています。実際、NGTの使用はランダムに割り付けられたものではなく医療チームの判断によるため、この関連を「NGTが体重増加を引き起こした」という因果関係として解釈すべきではない、と論文中で明確に注意が促されています。
また、ARFID群はAN・AAN群に比べてうつ病の診断は少ない一方、嘔吐や窒息への恐怖に関連する恐怖症の割合が高いなど、併存する心理的特徴にも違いが見られたとのことです。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は単一施設での後方視的研究であり、ARFID群のサンプル数が34人と比較的小さい点が著者らによって限界として挙げられています。NGTの使用期間や、経管栄養が全体の栄養補給に占めた割合といった詳細なデータは収集されておらず、時間経過に伴うより精緻な分析はできなかったとのことです。加えて、2021年8月の運用変更の前後で効果を分けて検証するにも症例数が不十分だったこと、ARFID内のサブタイプ情報が系統的に収集されていなかったこと、NGT留置に伴う患者本人の心理的な苦痛などは評価されていないことも限界として述べられています。退院後の長期的な経過も追跡されていないため、入院中の体重増加やNGT使用が長期的な回復につながるかどうかは今回の研究だけでは分かりません。著者らは、これらの結果はあくまで探索的なものであり、ARFIDに特化した栄養回復プロトコルの開発や、多施設での前向き研究が今後必要だと結論づけています。
まとめ
今回の研究では、入院治療を受けたARFIDの子どもたちは、神経性やせ症の子どもたちと同程度の体重増加を達成した一方で、その過程でより多くの経管栄養サポートを必要とする傾向にあったことが示されました。ただしNGT使用と体重増加の関連は、もともと栄養状態が重い患者ほどNGTが選ばれやすいという臨床判断の結果を反映している可能性が高く、単純に「NGTを使えば体重が増える」と読み取れるものではありません。一つの研究であり結論が確定したわけではなく、ARFIDという多様な背景を持つ疾患に合わせた、より個別化された栄養回復の方法を検討していく必要性を示すデータと位置づけられそうです。
原著論文の著者・所属:Elizabeth M. Noonan(Department of Pediatrics, SSM Health Cardinal Glennon Children’s Hospital, 1465 S. Grand Blvd, Saint Louis, MO 63104, USA)、Jason M Doherty(School of Medicine, Saint Louis University, Saint Louis, MO 63104, USA)、Amanda Ferrito(Department of Pediatrics, Medical College of Wisconsin, Milwaukee, WI 53226, USA)、Darshwana Arunprasath(School of Medicine, Saint Louis University, Saint Louis, MO 63104, USA)、Alexandra Bush-Kaufman(Department of Pediatrics, SSM Health Cardinal Glennon Children’s Hospital, 1465 S. Grand Blvd, Saint Louis, MO 63104, USA)、Grace E. Monterubio(Department of Pediatrics, SSM Health Cardinal Glennon Children’s Hospital, 1465 S. Grand Blvd, Saint Louis, MO 63104, USA)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Elizabeth M. Noonan, Jason M Doherty, Amanda Ferrito, et al. Enteral Nutrition Support and Short-Term Weight Outcomes in Pediatric Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder and Anorexia Nervosa During Inpatient Medical Stabilization: A Retrospective Cohort Study. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18162709. 原著ライセンス: cc-by.