慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界的に患者数の多い呼吸器の病気で、進行すると体重減少や筋肉の消耗を伴う「低栄養」を合併しやすいことが知られています。入院患者を対象とした過去の報告では、COPD患者の3〜6割が低栄養状態にあるともされます。低栄養は呼吸筋の働きを弱め、入院の長期化や生活の質の低下にもつながりうるため、早期に見つける簡便な方法が求められてきました。今回、中国・河南大学第一附属医院のグループが、入院COPD患者を対象に、二つの栄養評価ツールが低栄養をどれだけ正確に見分けられるかを比較した後ろ向きコホート研究を報告しました。
体組成計と血液検査から得られる二つの指標を比較
研究の対象は、2018年から2024年に同院の呼吸器・集中治療科に入院し、体組成分析(生体電気インピーダンス法=BIA)を受け、かつ血清アルブミン値のデータがそろっていたCOPD患者121人です。当初、BIA測定を受けた449人が候補となりましたが、血清アルブミンのデータが揃っていた297人にさらに除外基準(結核や悪性腫瘍、重い肝腎障害、糖尿病、心血管疾患などの合併がないことなど)を適用し、最終的に121人(平均年齢74.4歳、男性が81.0%)が解析対象になりました。
比較したのは、体組成計(InBody S10)で測定する「位相角(PhA)」と、血清アルブミン濃度と体重から計算する「高齢者栄養リスク指数(GNRI)」です。位相角は細胞膜の状態や筋肉量の目安とされる指標で、この研究では過去のCOPD研究にならい4.25度という基準値を用いました。GNRIは体重・身長から算出した理想体重とアルブミン値を組み合わせた指数で、98以下を栄養リスクありとする基準が使われました。低栄養の判定自体は、国際的な診断基準である「GLIM基準」(体重減少や筋肉量減少などの表現型基準と、炎症・疾病負荷などの病因基準を組み合わせる方式)に基づいて行われ、COPDそのものが病因基準(疾病負荷)を満たすと位置づけられました。
GNRIの方が高い判別力を示した
GLIM基準による判定では、121人中81人(66.9%)が低栄養に分類されました。低栄養群は正常栄養群に比べて、75歳超の割合、体重、BMI、位相角、四肢骨格筋量指数(ASMI)、ヘモグロビン値、GNRIのいずれも有意に低く、入院日数は有意に長いという結果でした。
GLIM判定を基準にして、位相角(カットオフ4.25度)とGNRI(カットオフ98)それぞれの診断精度を調べたところ、位相角は感度0.691、特異度0.625、正確度0.669、AUC(ROC曲線下面積、識別力を表す指標で1に近いほど精度が高いとされます)0.656でした。一方のGNRIは感度0.753、特異度0.700、正確度0.736、AUC0.785となり、いずれの指標でもGNRIが上回りました。両者のAUCの差を統計的に検定するDeLong検定でも、有意な差(p=0.035)が確認されています。さらに、年齢や位相角、ヘモグロビン、GNRIを含めた多変量解析では、性別による調整を行っても、GNRIが98以下であることだけが低栄養と独立して関連する因子として残りました(オッズ比5.95、95%信頼区間2.42〜14.61)。
臨床的な有用性を評価する「decision curve analysis(意思決定曲線分析)」という手法でも、リスクを判定する閾値を低く設定した範囲では両ツールの正味の臨床的有益性は近い値を示しましたが、閾値を上げていくと位相角の有益性は急速に低下してマイナスに転じたのに対し、GNRIはより広い閾値の範囲でプラスの有益性を維持したと報告されています。なお、位相角については、男性の患者では低栄養群で有意に低い値を示した一方、女性の患者では有意差が見られなかったという性差も記録されています。
研究の限界と読み方の注意
この研究は単一施設での後ろ向き(過去のデータをさかのぼって解析する)コホート研究であり、対象も121人と限られています。著者らは、後ろ向き研究という設計上、低栄養と入院日数の延長といった関連について、どちらが原因でどちらが結果かという時間的な前後関係を明らかにできない点を限界として挙げています。また、診療記録の制約から、GLIM基準のうち「体重減少」の項目は今回の判定に十分な形で反映できず、低BMIと筋肉量減少の2項目に絞って評価した点も述べられています。今回対象となった患者は急性増悪や高齢、長期臥床、食欲低下を伴う入院患者が中心だったため、低栄養の割合が既存の報告よりやや高めに出た可能性があるとも考察されています。この研究にはGNRIとPhAの二つの指標を比較した点に意味がありますが、一つの研究の結果であり、これだけでCOPD患者の栄養評価の方法が確定したわけではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Xinxin Li, Yaying Yu, Lijing Cao, et al. Diagnostic value of geriatric nutritional risk index and phase angle for malnutrition in patients with COPD: a retrospective cohort study. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1887430. 原著ライセンス: cc-by.