中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、炭素数6〜12の脂肪酸からなる油脂で、素早くエネルギーに変わる特徴から、ケトン体産生を促す食事療法やダイエット、スポーツ栄養、さらには特定の代謝疾患の食事療法まで、幅広い場面で使われています。MCTオイルはドラッグストアやオンラインショップでも手に入り、体重管理や運動サポートをうたうサプリメントとして一般消費者にも浸透しつつあります。一方で、飲んだ後にお腹の調子を崩したという声も以前から報告されており、ドイツ・ミュンスター応用科学大学の栄養療法センター(Center for Nutrition and Therapy)に所属するMarc Scheller氏らの研究チームは、MCT摂取後に報告されてきた副作用を体系的に整理するレビュー論文をまとめました。1971年には39mLのMCT摂取で消化器症状が出たという報告もあり、乳化したり少しずつ飲んだりすると和らぐことが古くから知られていましたが、副作用の頻度や重さ、どんな条件で起きやすいかを系統的にまとめた研究はこれまで十分ではなかったといいます。

33件・参加者1,100人分の研究を集めて何がわかったか

研究チームはPRISMAガイドラインとコクランハンドブックの手法に沿って、PubMedとWeb of Scienceの文献データベースを2026年3月31日までの範囲で検索しました。最終的に1984年から2026年にかけて発表された33件の研究(参加者合計1,100人、平均33人前後、範囲6〜152人)が選ばれ、うち約4割は健康な人を対象にしたもの、残りはてんかん、アルツハイマー病、本態性振戦、肥満、パーキンソン病、脳震盪後症候群などの患者を対象にした研究でした。MCTの与え方は、35〜80%ものエネルギーをMCTから摂る長期の食事療法(中央値20日間、最長24か月)から、体重1kgあたり4mg〜0.5gや8〜85gといった単回投与まで様々で、オイルとして飲む形が最も多く、次いでMCTを中心としたケトン食、粉ミルクなどの調製品が続きました。

結果として、副作用を数量的に報告していた29件のうち、下痢が最も多く報告され(22件、75.9%の研究で言及)、次いで腹痛・不快感(18件、62.1%)、吐き気(11件、37.9%)、便秘(10件、34.5%)と続きました。参加者に占める割合で見ると、下痢を経験した人の割合は研究によって4%から100%までばらつきがあり、腹痛・不快感は平均32.1%、原因を特定しない消化器症状は平均34.8%の参加者に見られたとされています。逆に腹部膨満・ガスは平均9.6%と比較的少なめでした。症状の多くは摂取から2時間以内に始まり、30分から6時間ほどで治まったとされますが、1日に90mLという多量のMCTを摂取した際には症状が1日以上続いた例も報告されています。この高用量の投与は、倫理的な理由から途中で中止されたとのことです。

用量や種類による違い、そして研究の限界

症状の重さについて質的な評価をしていた20件のうち、9件は「軽度」または「主に軽度」としていましたが、90mLを一度に摂取した研究のように「耐えがたい」とされたケースもありました。4件の研究では、MCTの量を増やすほど副作用が増えたと報告されており、論文では1日あたり50〜100g程度までを目安に、1回あたりはおよそ30g未満から少しずつ増やしていく方法が提案されている、と紹介されています。ただし、85gという多い量でも、それより少ない量でも同様の症状が見られた研究があり、量だけでは説明しきれない個人差も指摘されています。副作用が原因で研究から離脱した参加者の割合は、報告があった11件の研究で平均11.4%、長期の食事療法では脱落率が60%を超える例もありましたが、脱落の理由は副作用だけでなく食事療法の負担感や効果を感じられないことなど複数の要因が絡んでいたとされています。カフェイン150mgを一緒に摂ると耐容性が改善したとする研究や、MCTを高圧で均質化する処理で改善したとする研究がある一方、ブドウ糖を一緒に摂る方法については副作用が半減したという報告と、変化がない、あるいは増えたという報告が混在しており、一貫した結論には至っていません。また、カプリル酸(C8:0)とカプリン酸(C10:0)の組み合わせで摂取した方が、それぞれを単独で摂るより副作用が少なかったとする研究が1件ありましたが、脂肪酸の種類による違いを調べた研究自体が少なく、明確な結論は出ていません。

著者らは、この分野の研究の質にも注意を促しています。ランダム化比較試験19件のうち26.3%、ランダム化されていない研究14件のうち78.6%が、バイアスのリスクが高いと評価されました。さらに33件中17件(51.5%)は企業との関わりがあり、4件は企業が研究デザインや結果の解釈、発表に直接関与していたとされ、こうした利益相反が副作用の過小報告につながっている可能性も指摘されています。研究デザインや投与量、報告の仕方が研究ごとに大きく異なるため、今回の論文では明確な用量反応関係を統計的に示すことはできなかった、という限界も述べられています。長期的な安全性を検討したデータも乏しく、症状がいつ始まりいつ治まるかを詳しく記録した研究は33件中9件(27.3%)にとどまっていました。

まとめ

今回のレビューでは、MCTの摂取に伴って下痢や腹痛、吐き気といった消化器症状がしばしば報告されており、多くは軽度とされる一方で、量が多い場合などに中等度から重度の症状や、それによる研究離脱も珍しくなかったことが整理されました。ただし、これは既存の33研究をまとめて概観したレビューであり、研究間のばらつきや利益相反の影響も大きいため、脂肪酸の種類・投与方法・個人差がどのように副作用に影響するかについては、今後より標準化された方法での検証が必要だと著者らは述べています。MCTを試す際の目安として一つの参考にはなりますが、これだけで安全性や効果が確定したわけではない点には留意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Marc Scheller, Marius Frenser, Juliet Valembois, et al. Gastrointestinal issues predominate among side effects of medium-chain triglyceride consumption in humans. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1829954. 原著ライセンス: cc-by.