パストゥルマは、牛肉を塩漬けにしたのち乾燥・熟成させ、チェメンと呼ばれる香辛料ペーストで表面を覆って仕上げるトルコの伝統的な保存食肉です。特に北部の街カスタモヌは古くからの産地として知られていますが、同じパストゥルマでも作る生産者によって味や食感が違うと感じたことがある人は多いはずです。この違いが実際に部位の差によるものなのか、それとも生産者ごとの作り方の差によるものなのか、これまで科学的に比較されたデータは限られていました。
この研究では、カスタモヌ大学獣医学部の研究者らが、地元の5つの生産者から市販段階のパストゥルマを収集し、部位(種類)と生産者という2つの要因が品質にどう影響するかを詳しく調べました。
どのように調べたのか
対象としたのは、腰の内側の筋肉(大腰筋・小腰筋)を使う「クシギョミュ」と、背中のロース肉(最長筋)を使う「スルト」という2種類のパストゥルマです。5つの生産者からそれぞれの種類を6点ずつ、合計60サンプルを集め、水分・灰分・脂肪・タンパク質・塩分・pH・水分活性(aw)といった基本的な理化学的性質に加え、脂質の酸化度合いを示すTBARS値、色(明るさ・赤み・黄色み)、さらに微生物の数を測定しています。統計解析では、生産者と部位という2つの要因がそれぞれどの程度品質のばらつきに影響しているかを、分散分析と効果量(η²p)という指標を使って比較しました。官能評価(人による味や食感の評価)も併せて行われています。
何がわかったのか
もっとも大きな差が出たのは脂肪含量で、これは部位の違いによる影響が強いことが示されました(効果量η²p=0.46)。腰の内側の肉と背ロースでは、そもそも脂肪のつき方が異なるため、これは筋肉の解剖学的な違いを反映した結果と考えられます。
一方、灰分(ミネラル分の指標)、pH、赤み(色調のa*値)については、部位よりも生産者による違いのほうが目立ちました。さらに灰分については、生産者と部位の組み合わせによって傾向が変わる交互作用も確認されています。これに対し、水分・塩分・水分活性・TBARS値(酸化の指標)、明るさ(L*値)や黄色み(b*値)には、統計的に意味のある差は見られませんでした。つまり酸化の進み具合という点では、どの生産者・部位でも大きな差はなかったことになります。
微生物の数についても、部位による差より生産者による差のほうが大きい傾向が見られました。ある1つの生産者では、好気性中温細菌の総数、乳酸菌、ブドウ球菌、シュードモナス属菌、酵母・カビの数がいずれも他の生産者より多く、同時に水分含量が高め・塩分含量が低めであることもわかりました。塩分濃度の低さや水分の高さは微生物が増えやすい条件であるため、この結果は塩漬けや乾燥の工程の違いが影響している可能性を示しています。なお、腸内細菌科(食品衛生の指標としてよく使われる菌群)の数はどのサンプルでも低く保たれており、工程の衛生管理自体はおおむね良好であったとされています。
官能評価では、パリッとした食感や味・風味の評価において、生産者ごと・部位ごとに違いが見られたと報告されています。
この研究の読み方
研究チームは、今回の結果全体として、パストゥルマの品質のばらつきは筋肉の部位そのものよりも、生産者ごとの製造方法(塩漬けや乾燥の工程など)の違いによる影響のほうが大きいと述べています。ただし、この研究はカスタモヌ地域の5つの生産者、60サンプルという特定の範囲を対象にしたものであり、ここで得られた傾向がすべてのパストゥルマ生産者や他の地域に当てはまるとは限りません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
この研究に日本の研究機関や日本の食品との関わりを示す記述は含まれていません。
まとめ
今回の研究は、トルコの伝統的な乾燥熟成肉パストゥルマについて、脂肪含量など一部の性質は使う部位によって左右される一方、灰分やpH、微生物の数といった品質面では生産者ごとの製造工程の違いがより大きく影響していることを示唆するものです。研究チームは、こうした結果から、塩漬けや乾燥、衛生管理の工程を標準化することが、カスタモヌ産パストゥルマの品質の均一化につながる可能性があると指摘しています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yasin Akkemik, İrem Ceylan, Alper Güngören, et al. Effects of producer and pastırma type on the physicochemical, microbiological, and sensory attributes of traditional dry-cured pastırma from Kastamonu. アンカラ大学獣医学部紀要 (2026). DOI: 10.33988/auvfd.1831974. 原著ライセンス: cc-by-nc.