この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

イミダクロプリドは、ネオニコチノイド系と呼ばれる殺虫剤の一種です。この農薬には、植物に吸収されたあと植物体内を移動して果実や葉などの食べる部分にまで運ばれるという性質があります。研究チームは、この性質のために、搾りたての果物・野菜ジュースにも農薬が残ってしまうと説明しています。

ただし、ジュースの中に残る量はごくわずかであり、しかもジュースには糖類、有機酸、色素、ポリフェノールなど、測定の邪魔になる成分が大量に含まれています。著者らは、こうした複雑な成分の中から微量の農薬だけを正確に測り分けることが難しく、そのために簡便で効率的かつ費用のかからない分析法が必要だと述べています。本研究の目的は、そのような分析法を確立することです。

二つの部品を組み合わせる方法

研究チームが採った方針は、役割の異なる二つの仕組みを、レゴブロックのように組み合わせるというものでした。一つ目は試料をきれいにして農薬を濃縮する部分、二つ目は濃縮した農薬をすばやく測る部分です。前者がジュースの成分による妨害の問題を、後者が微量の測定という問題を、それぞれ受け持ちます。

一つ目の部品は、著者らが自作した小さなカートリッジ(筒状の器具)です。この中には「分子インプリントポリマー」と呼ばれる樹脂が詰められています。これは、あらかじめ目的の分子を型として使って作ることで、その分子の形と性質にぴったり合うくぼみを内部に持たせた材料です。そのくぼみがイミダクロプリドだけを選んで捕まえるため、ジュースの他の成分と分離し、同時に濃縮することができます。ここに色素などを取り除く吸着剤も組み合わせました。

二つ目の部品は、表面増強ラマン分光法(SERS)という測定法のための基板です。ラマン分光法は、光を当てたときに分子が返す光の特徴から、その分子の「指紋」にあたる情報を読み取る方法で、SERSはそれを特殊な材料の表面で大幅に増幅する技術です。研究チームは二酸化モリブデンと炭素からなる微小な球を作り、さらに窒素中で加熱処理(アニール)しました。この処理によって材料の性質が測定に使うレーザーの波長と合うようになり、農薬分子が吸着したときに電荷の移動が起きて信号が強まる、と著者らは報告しています。

実際の使い方は簡単で、カートリッジから出てきた液を一滴、基板の膜の上に落として少し置いてから測るだけです。特別な化学処理も大型装置も要りません。論文によれば、前処理にかかる時間は約9分、測定そのものは約15秒とされています。

報告された主な結果

著者らの報告では、この方法は1ミリリットルあたり0.500ナノグラムから50.0ナノグラムの範囲で良好な直線性を示し、検出下限は1キログラムあたり0.0904マイクログラムでした。ナノグラムは10億分の1グラム、マイクログラムは100万分の1グラムにあたる単位です。

あらかじめ農薬を加えたジュースで測定の正確さを確かめる試験では、トマト、セロリ、リンゴ、および混合ジュースを対象に、加えた量に対する回収率が92.7%から98.1%、ばらつきの指標である相対標準偏差が0.332%から2.50%でした。また、確立された分析法である高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による測定結果と比べても、95%の信頼水準で有意な差は認められなかったと述べられています。

さらに研究チームは、市場で購入した20点の実際の試料にこの方法を適用しました。キウイ、ケール、バナナ、オレンジのジュースやそれらの混合品などが含まれ、残留量はppb(10億分の1)の水準で検出されたと報告されています。基板そのものの性能についても、色素分子を使った評価で作製ロットや測定位置を変えてもばらつきが小さく、10週間にわたって安定していたとされています。

この研究が示すこと

この研究が示しているのは、「選んで集める」仕組みと「高感度で読み取る」仕組みを別々に設計し、組み合わせて使うという考え方の有効性です。成分が入り組んだ食品を相手にするとき、一つの技術ですべてを解決しようとするのではなく、問題を切り分けて部品ごとに最適化するほうが、結果として簡便さと性能を両立しやすいことを、著者らは具体的な形で示しました。

論文では、この方法がジュース製品の日常的な食品安全監視における補助的なスクリーニング手段として役立ちうると位置づけられています。一方で著者ら自身が、乳や種実類を原料とする飲料のように脂質やタンパク質を多く含む複雑な試料への適用可能性については、今後の検証が必要な課題として残ると述べています。

著者:Xinru Yu(Academy of Contemporary Food Engineering, South China University of Technology, Guangzhou Higher Education Mega Centre, Guangzhou 510006, China)、Hongbin Pu(Academy of Contemporary Food Engineering, South China University of Technology, Guangzhou Higher Education Mega Centre, Guangzhou 510006, China)、Da-Wen Sun(Academy of Contemporary Food Engineering, South China University of Technology, Guangzhou Higher Education Mega Centre, Guangzhou 510006, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xinru Yu, Hongbin Pu, Da-Wen Sun. Modularly integrated synergistic SERS strategy for ultra-trace detection of imidacloprid in fresh fruit and vegetable juices. Food Chemistry 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151105. 原著ライセンス:CC BY.