アミノ酸には、鏡に映したように構造が左右反転した「L体」と「D体」という2種類の形(キラリティ)が存在します。生き物のタンパク質はほとんどがL体アミノ酸でできていますが、近年になって、人間を含む高等動物の体内にごく微量のD-アミノ酸が存在し、神経伝達やホルモンの合成・分泌の調節、さらには皮膚での抗酸化作用やバリア機能への関与など、L体とは異なる働きを担っていることが明らかになってきました。こうしたD-アミノ酸が体内でどこから来るのかを考えたとき、候補の一つとして挙がるのが食事からの摂取です。そのため、D体を豊富に含む食品を見つけ出し、機能性食品として活用しようという期待が高まっています。

ただし、食品や飲料といった実際の試料の中でD-アミノ酸を正確に測定するのは簡単ではありません。よく使われる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析手法では、食品中に含まれる多種多様な成分が目的のアミノ酸と同時に溶け出してきてしまい、ごく微量しか存在しないD-アミノ酸の定量を妨げることが少なくないためです。正確な含有量を知るには、より選択性の高い―つまり、狙った物質だけをきちんと分けて検出できる―分析法が必要とされてきました。

研究でわかったこと

この論文は、九州大学大学院薬学研究院の研究者らが、こうした課題に取り組むために自分たちで開発を進めてきた分析技術を振り返り、まとめた総合論文(レビュー)です。著者らはこれまで、アミノ酸のL体とD体を分離するための「光学分割カラム」を工夫して伸長したり、HPLCを多次元化する、つまり複数の分離の仕組みを組み合わせて段階的に成分を絞り込んでいく手法を取り入れたりすることで、分析の選択性を高める技術開発に取り組んできました。こうした工夫により、複雑な成分が入り混じった食品や飲料のマトリックス(試料の中身全体)の中からでも、タンパク質を構成するキラルアミノ酸や、代謝に関わるキラルアミノ酸を正確に定量できる技術を築いてきたとされています。

本論文では、これまでに報告してきた分析法のうち、特に食品・飲料試料中のキラルアミノ酸を対象として設計・開発されたものと、それらを実際に使った分析例について概説する内容となっています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この論文は新しい実験結果を報告するオリジナル論文ではなく、著者らがこれまで積み重ねてきた分析法の開発成果を振り返って整理した総合論文(レビュー)です。そのため、特定の食品にどれだけD-アミノ酸が含まれていたかといった具体的な数値は、この要旨の範囲では示されていません。あくまで「どのような分析技術が、なぜ必要とされ、どう開発されてきたか」を紹介するものであり、特定の食品の健康効果を裏づけるものではない点に注意が必要です。著者らは九州大学大学院薬学研究院に所属しており、日本の研究機関でこうした分析技術の開発が進められてきたことがうかがえます。

まとめ

D-アミノ酸は、これまで見過ごされがちだった微量成分でありながら、体内でさまざまな生理機能に関わることが分かってきています。その由来の一つとして食事が注目される中、食品中の微量なD-アミノ酸を正確に測るための分析技術そのものが、研究の重要な土台になっていることがこの論文からうかがえます。今後、こうした高選択的な分析法を使ってどのような食品にD-アミノ酸が多く含まれているかが明らかにされていくことが期待されますが、本論文自体は分析技術の開発と概説を目的としたものであり、個々の食品の効果を示すものではない点を踏まえて読むことが大切です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Chiharu ISHII, Mai OYAIDE, Kenji HAMASE. 食品中キラルアミノ酸を対象とする高選択的LC分析法の開発. 分析化学 (2026). DOI: 10.2116/bunsekikagaku.75.255.