パンやシリアルの原料となる小麦、ライ麦、大麦などの穀物には、細胞壁を構成する食物繊維の一種として『アラビノキシラン(AX)』という多糖類が豊富に含まれています。アラビノキシランは、キシロースという糖が鎖状につながった背骨のような構造(キシロピラノース骨格)に、アラビノフラノースという糖が枝のように結合した形をしています。この枝分かれの量や付き方(置換パターン)が、アラビノキシランの健康面での働きや、食品加工での性質(水を抱え込む力や粘性など)に影響すると考えられています。しかし、この細かな枝分かれ構造を調べることは簡単ではありませんでした。従来使われてきたメチル化分析などの手法は手間と時間がかかるうえ、構造の多様性を十分にとらえきれないという課題があったといいます。
そこで研究チームは、酵素を使ってアラビノキシランを分解し、生じた断片を高精度に分析する新しい手法を開発しました。具体的には、糖質分解酵素ファミリー10および11に属するエンド型のβ-1,4-キシラナーゼという酵素を用いて、穀物由来の食物繊維中のアラビノキシランを分解し、キシロオリゴ糖(XOS)やアラビノキシロオリゴ糖(AXOS)と呼ばれる断片を生じさせます。これらの断片を、パルスアンペロメトリー検出と質量分析検出を組み合わせた高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD/MS)という分析装置にかけることで、断片の種類やその存在比を読み取る仕組みです。ただし、この手法で得られるのは酵素が分解できた部分の情報に限られ、酵素が働きにくい構造の領域については直接とらえられないため、あくまで間接的にアラビノキシランの構造的特徴を推定するものだと説明されています。
研究でわかったこと
今回の研究では、分析の精度を高めるために、市販されている標準物質に加えて、新たに単離・調製した置換度の高いAXOS標準物質を組み合わせ、合計17種類の構造が異なる(A)XOS標準物質をそろえました。これにより、アラビノキシランにアラビノフラノースがどのように付いているか、より詳しく見分けられるようになったとされています。あわせて、酵素反応の条件やクロマトグラフィーの分析条件を最適化し、内部標準物質に対する各(A)XOS標準物質の相対応答係数(RRF)を求めることで、日常的な分析(半定量分析)にも使える基盤を整えたと報告されています。
この手法の実用性を確認するため、構造がすでによく調べられている穀物の水溶性・不溶性食物繊維サンプルが用いられました。対象は5種類の異なる小麦(Triticum属)、ライ麦、大麦です。分析の結果、これら小麦の各品種は互いによく似た(A)XOSプロファイル(断片の構成パターン)を示すことが確認され、これは小麦の品種同士が系統的に近い関係にあることと矛盾しない結果だったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、アラビノキシランの構造を調べるための分析手法そのものを開発し、その使い方を穀物サンプルで確かめたという性格の研究です。健康への効果を直接検証したものではなく、あくまで構造をより詳しく把握するための道具立てを整えた段階だと理解しておくのがよいでしょう。また、手法自体が酵素で分解できる範囲の構造しかとらえられないという性質上、アラビノキシラン全体の構造を完全に描き出すものではない点にも留意が必要です。今回の分析対象は小麦・ライ麦・大麦という限られた穀物種であり、一つの研究として示された知見であることから、今後さらに幅広い穀物や食品での検証が積み重ねられていく分野だと考えられます。
まとめ
穀物の食物繊維に含まれるアラビノキシランは、その細かな枝分かれ構造によって性質が変わりうる成分ですが、これまで詳しい構造解析には手間がかかっていました。今回の研究では、酵素分解とHPAEC-PAD/MSを組み合わせた分析手法が新たに整備され、小麦・ライ麦・大麦の食物繊維サンプルを使ってその有用性が確認されました。今後、こうした分析手法が穀物由来食物繊維の研究にどう活用されていくか、続報が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Lukas Sitter, Mirko Bunzel. Advanced structural profiling of arabinoxylans from cereal grains by high performance anion exchange chromatography with parallel pulsed amperometric and mass spectrometric detection. カーボハイドレート・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.carres.2026.110074. 原著ライセンス: cc-by.