心臓病の予防というと、脂質やコレステロールの話が中心になりがちですが、ビタミンやミネラルといった微量栄養素が心血管の健康にどう関わっているかは、これまであまり注目されてきませんでした。今回紹介する研究は、冠動脈疾患(心臓を養う血管が狭くなったり詰まったりする病気)を持つ人と持たない人とで、実際に食事から摂っている微量栄養素の量に違いがあるのかを調べたものです。

研究チームはメキシコのグアダラハラ大学附属の研究所などに所属し、グアダラハラ市内の病院(Hospital Civil de Guadalajara、ISSSTEの家庭診療所)で協力者を募りました。対象は30〜75歳、BMI18.5kg/m²超で、サプリメントを使用しておらず、自己免疫疾患やがん、慢性腎臓病の診断がない107人です。このうち51人は過去2年以内に循環器内科で冠動脈疾患と診断された患者、56人は診断歴のない人(胸痛や不整脈などの症状を確認するローズ狭心症質問票でスクリーニング)でした。冠動脈疾患の診断は、心電図のST部分の異常や冠動脈造影による狭窄の確認、心筋障害の指標となるクレアチンキナーゼや心筋トロポニンの測定など、循環器専門医による総合的な評価に基づいています。

食事調査でわかったこと

食事内容は、管理栄養士が対象者に日頃の食生活について聞き取る「24時間思い出し法」に基づく方法で評価され、食品の量を実際に近づけて把握するため計量器具や食品模型、カップ・スプーンなどの目安量も使われました。診断後に食事を変えた患者には、診断前の普段の食事内容を答えてもらう工夫もされています。得られたデータはNutritionist Pro™という栄養解析ソフトで分析され、メキシコの栄養摂取基準(国立医科学栄養研究所や関連規格、DRIなど)と照らし合わせて「摂取量が十分かどうか」が判定されました。

結果を見ると、冠動脈疾患のある人は、ビタミンA・C・Kのほか、抗酸化物質として知られるリコピンやルテインの摂取が、疾患のない人に比べて少ない傾向が示されました。男性では、冠動脈疾患のある人はビタミンA・C・葉酸・カリウム・マンガン・銅・鉄・βカロテン・ルテイン・リコピンなど、多くの栄養素で摂取量が有意に低いという結果でした。また女性では、冠動脈疾患のある人でリコピンの摂取量が有意に少なく、ビタミンKの摂取基準を満たしていた人の割合はわずか23.5%で、疾患のない女性(59.1%)よりも大きく下回っていました。全体としても、疾患のある人でビタミンA・C・Kの摂取基準達成率が有意に低いという結果が出ています。

脂質の摂取パターンにも違いがみられ、冠動脈疾患のある男性はn-6系とn-3系の多価不飽和脂肪酸の摂取比率(n-6:n-3比)が、疾患のない男性よりも高いという結果でした(13.3対8.5、女性でも同様の傾向)。この比率は数値が大きいほどn-6系に偏っていることを意味し、著者らはこれが同じグループで見られたHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の低さと関連している可能性を考察しています。また、興味深いことに、疾患のない男性の方が食事性コレステロールの摂取量は多く、著者らは「症状が出ていないからといって心血管リスク因子と無縁というわけではない」と指摘しています。

この研究の読み方と限界

この研究は、ある一時点で食事内容と病気の有無を同時に調べる「横断研究」という設計のため、微量栄養素の摂取が少ないことが冠動脈疾患を引き起こしたのか、それとも病気になった結果として食生活が変化したのかを区別することはできません。著者ら自身も、これらの結果は将来の大規模な確認研究のための「仮説を生み出す」段階の知見として捉えるべきだとしています。

また、食事調査が思い出し形式のため記憶違いが入り得ること、女性の冠動脈疾患患者の人数が少なかったこと、複数の項目を同時に比較した際の統計的な補正が行われていないことも限界として挙げられています。加えて、疾患のないグループも問診票によるスクリーニングのみで判定されており、自覚症状のない動脈硬化が隠れている可能性は完全には否定できないとされています。著者らは今後の研究として、3日間の食事記録の導入や、社会経済状況・生活習慣要因を含めた男女別のサンプルサイズ設計を提案しています。

まとめ

この研究では、冠動脈疾患のある人とない人を比較したところ、疾患のある人でビタミンA・C・Kや、リコピン・ルテインといった抗酸化物質の摂取が少ない傾向が示されました。ただし食事の偏りが病気の原因なのか結果なのかはこの研究だけでは判断できず、著者らも「微量栄養素の摂取不足が冠動脈疾患を直接引き起こすとは言えない」としたうえで、食事の質を見直すことが心血管の健康管理における一つの生活習慣要因になりうると述べています。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意しつつ、今後の研究の広がりが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Erika Martínez‐López, Mariana Pérez-Robles, Sissi Godinez-Mora, et al. Lower Micronutrient Intake in Patients with Coronary Artery Disease: A Cross-Sectional Study. ヘルスケア (2026). DOI: 10.3390/healthcare14162611. 原著ライセンス: cc-by.