赤ちゃんの心臓は妊娠のごく初期に形づくられます。この時期の母体の栄養状態が、先天性心疾患(CHD)と呼ばれる心臓の構造異常の発症に関わる可能性があるとして、これまでも様々な栄養素との関連が研究されてきました。なかでもビタミンB群は、葉酸(ビタミンB9)をはじめとして胎児の発生と関わりが深いとされる栄養素群ですが、多くの先行研究はB1、B2、B3、B6、B12といった個々のビタミンを単独で評価するにとどまっており、これらを組み合わせた食事全体のパターンとCHDリスクとの関係はよくわかっていませんでした。今回紹介する論文は、メキシコで行われた症例対照研究により、この「ビタミンB群の複合的な摂取パターン」と、心臓の構造異常が複数重なる「複雑先天性心疾患」のリスクとの関連を検討したものです。

研究でわかったこと

研究では、妊娠中の母親の食事摂取状況を、信頼性が検証された食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価しました。得られた栄養素摂取量はエネルギー摂取量で調整したうえで、主成分分析という統計手法を用い、ビタミンB1・B2・B3・B6・B12の摂取量を組み合わせた「B群複合指数(B-Complex Index)」が作成されました。そして、この指数と複雑CHDリスクとの関連を、母親の年齢、総エネルギー摂取量、妊娠中のマルチビタミンサプリメント使用、受胎前後の葉酸サプリメント使用などの影響を統計的に調整したうえで解析しています。

その結果、複雑CHDのある子どもの母親は、対照群(CHDのない子どもの母親)と比べて、ビタミンB群の食事摂取量が有意に低いことが示されました。さらに、B群複合指数が高い(=ビタミンB群をバランスよく多く摂取している)母親ほど、複雑CHDのリスクが低いという関連が、他の要因を調整した後も独立して認められました(調整オッズ比0.707、95%信頼区間0.586〜0.843)。これは、個々のビタミンを単独で見るだけでなく、複数のビタミンB群をまとめた食事パターンとして評価することで、心臓の発生に関わる栄養環境について追加の手がかりが得られる可能性を示唆するものです。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は症例対照研究という手法で行われており、母親の食事パターンと複雑CHDリスクとの「関連」を示したものであって、ビタミンB群の摂取が心疾患を「予防する」と証明したものではない点に注意が必要です。論文の著者らも、これらの知見を確認し、背景にある生物学的な仕組みをさらに明らかにするためには、食事調査に加えてバイオマーカーや遺伝的な感受性の情報も組み合わせた前向き研究が必要だと述べています。また、この研究はメキシコの集団を対象としたものであり、一つの研究成果として捉え、結論が確定したものではないことを念頭に置いて読むとよいでしょう。

まとめ

今回の研究では、複雑先天性心疾患のある子どもの母親は対照群の母親に比べてビタミンB群(B1・B2・B3・B6・B12)の食事摂取が少ない傾向があり、これらを組み合わせた「B群複合指数」が高いほど複雑CHDのリスクが低いという関連が報告されました。妊娠中の栄養と胎児の心臓発生との関係を考えるうえで一つの手がかりとなる研究ですが、因果関係を示すものではなく、今後さらなる研究による検証が待たれます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:メキシコ人集団における母体のビタミンB群摂取パターンと複雑先天性心疾患リスク(ニュートリエンツ・2026年08月)